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下町の顔
FACE

第32回
『白河の森の小さなオアシス』

<プロフィール>
昭和31年江東区に生まれる。区内中村学園卒業後、文化学院大学部美術科入学、卒業。数軒の画廊に就職後、平成12年ギャラリーコピス開店。趣味は観劇。
ギャラリーコピスオーナー
みどりさん

清澄白河のケヤキ並木道。その通りを一本入ると洋風の洒落た建物が現れます。この近辺では珍しい本格的な画廊、ギャラリーコピスです。今回はそこのオーナーみどりさんをを訪ねてみました。


1.小さな評論家さんに囲まれて
★まず、ここの画廊を始めたのはいつぐらいからですか?
平成12年ですね。丸5年です。

★あ、そんなもんですか。なんかもっとずいぶん昔からやっているような気がしてました。
よくそういわれるんです。なんか馴染んじゃっているのかもしれない。今のところ、穴場みたいな感じなんで、知ってる人は知ってるみたいなところはありますけどね。だから生活の一部と言っちゃうと大げさですけど、もう当たり前に地域の一風景になっちゃってるのかもしれないですね。
人によってはね、学校帰りの小学生なんかも来ますしね。

通信簿も持ってきます
★小学生ってここに何しにくるんですか?
「今度、何の絵やってるの?」って言ってちゃんと絵を見に来ますよ。

★割れ物なんかもあると思うんですが、イタズラとかしません?
うん、それがねぇ、面白いんですよ。「買ったらお買い上げだからな」ってあたしが子供を脅すんで一応静かに見てますよ。友達を連れてきても「さわるな」とか言ってね。
こういうのっていいですよねえ。こうやって伝わってったらなあって思いますけどね。

★うんうん、子供たちが育って、ゆくゆくは地域にそういう環境みたいなのが出来ていくっていいですよね。
そうそう、通信簿も持ってきて見せてくれるしね。

★もう、お母さんですね。下町って本当に今でも地域のお母さんとかお父さんって結構居るんですよねえ。
ところでコピスって名前はどういう由来なんですか?
小さな雑木林です。groveが一番大きな森で、もう少し小さなforestがあって、その一番下がcoppiceなんですよ。ただ、うちでロゴにつかってるのはその発音記号のkopisですけどね。

★英語だったんですか?
英語なんですよ。なんかアクセントがつくから、よくフランス語じゃないかとかロシア語なのって言われますけどね。
そんなに大きくもなくて、木場公園じゃなく清澄庭園でもなくて、もっともっとちっちゃいところ。なんかいろんな木が集まってきたらいいなって思ってます。
なんかね、学術的に調べた方がいるんですよ。コピスの意味をその方に教えていただいたんですけどね。
大きな森の中をこう入って行くとね、鬱蒼としたなかに光がよくほうっとそこだけ落ちてくるようなところってあるじゃないですか。

★ああ、木漏れ日みたいな…
そう。すると周りが鬱蒼とした所なのにそこにだけお花が咲いて、何かこう蝶々なんか飛んでたりするような状況って、映画のワンシーンとかにありそうでしょ。それをね、コピスって言うんですって。
だから本当に森の中の小さなオアシスみたいな場所のことなんですって。何か皆が憩いの場として集まれるような空間。そういうところでありたいですね。

★なるほど、まさにぴったりのネーミングですね。植物、結構好きなんですか?
好きですね。名前もそうですし。

ギャラリー外観
★ミドリ?あっ、そうか。
最初、私がここに来た時に、大家さんにまず一番最初に訊いたことが、お庭いじりしていいかってことでした。それからはあっという間にお花が咲初めましたね。
植物があるからなんですかね、ここに入って来られた方によく言われるんですよ。通りから入ってくると、殺風景な所に急に洒落たホームが建ってて、何かホッとするって。

★なぜ画廊をはじめようと思ったんですか?
十代の頃から、大きくなったら画廊のお姉さんになろう、そう思ってましたからね。
絵が好きでしたので、当時から美術館に行ったり、画廊に出入りしたりしてましたね。そこには仲良くしてくださるお姉さんも居たりしましたし。
その後の学校での専攻はずっと油絵だったんですけどね、絵描きになるではなくて画廊のお姉さんになりたかった。油絵が自分の体質に合わなかったのもあったかもしれないです。
それと、企画したり、プロデュースしたりするほうが好きですし。

★画廊って企画とか貸し画廊とかいろいろあると思うのですが、ここはどの分類になるんですか?
まあ、いろいろやってますね。
作家の方に1週間単位で会場をお貸しすることもありますしね。例えば若い方でね、個展をするほど作品は無いけれども展覧会やりたいとか、展覧会やりたいけど個展をするほどお金が無いってそういう人にも提供したりすることもありますね。

★この辺って、若い作家って結構いそうですよね。
個展、いいですよ。すごく落ち着きますしね。自然光が入るところも少ないですしね。

★あ、そうか。ここ太陽光線が入るんですよね。
まあ逆に嫌がる方もいらっしゃいますけどね。そういう場合はパネルで全部壁にしちゃいますけど。
他にも写真展もあるし、コンサートをやったこともあるしクラフトもあるし、まあ訳わかんないものもあるしね。まだ、やったことがなくていいなあと思うのは朗読会かなあ(笑)。
でも、洒落たことをやってんじゃないかとか、ちょっと面白いもんやってるぞって、いつも言われ続けているようになりたいですね。それだけは崩したくないですね。ご近所の小さな美術評論家さんたちがいっぱい来てくれますから。
みなさん、もう思ったことそのまま言ってくれますよ。

★素の感想が聞けるっていいですね。
例えば銀座あたりの、見たらお金とられるんじゃないかみたいな感覚の場所では、お客さんはコツコツと靴の音だけ出して見て、何にも言わないで帰っていくわけですよ。
サーッと見たとしてもじっくり見たとしても、何を感じているのかとかどう思っているのかなんて一言もそこでは言わない。完璧にビジネスですよね。
ところがここでは、サンダル履きみたいな恰好で走ってきますからね。「わぁー、ちょっとすごいわね」とか「あっちの方がよかったわね」とかバンバン言ってくれる。楽しいですよ。

★何で清澄白河なんでしょうか。
探しましたね。本当に場所を探しました。でも、なかなか、町も物もそういうことやっていいよっていうのに出会えなかったですね。

★出会えたのがここ?
ここですね。空があって緑があって。で、ちゃんと文化がわかる人たちが住んでいる所。
1階で入れるところっていうのも条件でしたし、他にも街中ではなくてメインの通りからちょっと外れたところって希望もありました。もう、いろんなわがままで探しました。そして、もうないかもしれないっていう時にここに出会ったのですよ。

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