下町の顔 | FACE |
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2.正直だから生きづらいけれども ★ここの通りって役所があった頃に比べると人通り少ないでしょ。やっていけるかなぁという不安はなかったですか? ものすごうあったよ。お金もないから商品もあまりそろわんでしょ。町会の古い人たちにあそこにいいところあるよ、仕入れていらっしゃい、と言われて飛んで行って最初はひとつずつ買って来た。看板もないからダンボールに包装紙の裏側を貼って手書きで。テントも大家さんがつけてくれて。みんなに助けてもらった。 お寺に来るおじいちゃんおばあちゃんも、地元にお金を落としていくことが先祖の供養になるからかって、一番高いもの買ってくれようとする。でも私言うの。一番高いものあるけど、使うの?無駄遣いせんでいるものだけ買ってって。そんなことが気に入るのか、いろいろな買い物してくれるよ。
深川めしの素。あさりご飯。でもうちはそれをそのままでは納得していないよ。オリジナルを作っている。海苔の佃煮なんかもね。 ★お客さんは観光客のような人が多いですか? そう、ほとんどね。ただ最近は貰って食べたら美味しかったって、近くの人も買いにみえるよ。はよ教えとってよ、って言いながらね(笑)。今までの正月は一日から無料の甘酒なんかもやってたよ。 でも今年は店が二つになってちょっと忙しいから休んだけど。 ★そうそう、もう1店舗できたんですよね。高橋さんは儲からない儲からないと言われるけど、傍から見ると儲かっているように見えちゃう(笑)。そのあたりはどうですか? そう、でもね、儲かっていたら絶対誰ももう1店舗やらないよ。儲からないからもう1店舗って発想やね。 ★近いところに二つ。あまり意味がないという考え方はないですか? だいたい皆さんそうおっしゃる。でも向こうは手づくり一点もの。どこにもないもので個人が作っているものを置きたいなぁと。私は南京玉簾を作っていて電話注文なんかで売れていくけど、いろいろなもの趣味で作ってプレゼントにしてしまっている人いるじゃん。そういう人に売れる場を作ってあげたい。特に江戸をテーマにしたものをね。 ★江戸時代ねぇ。いいですね。南京玉簾やコマ回しは店頭でもやっていらっしゃるようですね。子供と触れ合うためにですか? 今は子供とも遊ぶけどね。ほんとは違うの(笑)。表におってね、なんもせんではいかんって家内が言うのね。玉簾を買ってきてやったけどはじめは全然できなかった。最近は結構いいよ。 ★なんか製造が追いつかなくって待っている人がたくさんいらっしゃるそうですが。 そう一週間で一本しかできないからね。竹、吟味して、穴開けて、印つけて。納得いくように作るからね。 ★どうですか、この仕事で見えてくるなにかがありますか? お母さんの言動が悪いね。お父さんを立てていない人が多いね。子供って小学生くらいまではお母さんの力で抑えられるんよ。けどそのあとはお母さんではもう駄目。お父さんも小学生くらいまでは本当に悪いことをしたらびんたくれてやる。親父は怖いもんだと一生に一度でいいから覚えさせておく。で、お母さんが手におえなくなったら、お父さんが出る。小さい頃怒ってあるから、駄目だぞ!というだけで済むでしょ。 子供の前でお父さんに小遣い上げるなんてもっての他よ。うちとこ来ても、お父さん、欲しいものあるとお母さんに言う。なによそれってお母さんに言われると、お父さんはすぐにスーと外に出て行ってしまう。もう、けとばしたくなるよ、お父さん、しっかりせいって。 あと子供のことね。子供に好奇心とか、紐巻く器用さとか、負けるくやしさとか、優越感とか、そういうものを教えてやれば大人になって付き合いとか商売とかできるようになると思う。親だけでなく周囲の大人がもっともっと頑張らないけない時代になっている。 この間、墨東の養護学校に3時間実演と講演とをやらしてもらったけど、そんときに校長先生が、同じ話をされた。だから私はこのまま行けばいいんだと思った。儲けは少ないけどやっているうちにみんなが実っていけば、いいことになっていくんじゃないかな。 あとね、今、怒り方を知らないで、迷っている大人が多いね。子供は、がーと怒っておいて抱きしめて持ち上げてばーんと落とせちゅうの。大きな声を出して怒るのは能がないのよ。肝心のところは小さい声で。そうするとうまくいく。 ★高橋さんご自身はどんなお子さんでしたか? いたずらっこかな。悪い子かな。人の体の欠点を笑ったり、今思い出すと恥ずかしいよ。
いやあるよ。でも大人だからね。馬鹿相手にしてもおろかだという自分の考えがあるからね。お店やっていていろいろあるけど、おかげさんでって頭下げてるの。 子供のときはいいんだと思うよ。悪いくらいで。 ★昔は大人の方も許容範囲が広かったですよね。 そう。だから今、子どもに言うの。悪いことやってもいいから覚えておけよって。 一つ二つ持っていってもいいけど、いやあかんけどね。うちが儲からなくなってしまう(笑)。 ★東京の下町ってのは好きですか? 好きです。面倒見がいいところ。三好町で陥没にあったとき、知らない人もうちに来いって言ってくれた。さりげないってこともいいところですね。 ★商店街の話を少し。案山子コンクールやってますね。 わたしたちも協力したいけど、なかなかできなくてね。でもあそこでパフォーマンスをやってくれるだけでいいよって言われたときは嬉しかった。ここの店は商店街の入り口に近いでしょ。だから案山子なんかも徹夜して作るし、去年のも展示してあるよ。 商店街に人だかりがしてるということは重要なことだと思っているのね。儲かってるわけじゃないけど。何千万の借金を抱えて18年よ。苦しいのを誰かに言ってもわかる人はいない。 でもお客さんの年寄りの人が言うよ。商売やるなら笑ってやれって。金はあとからついてくるって。それをあえて私は実行しとるの。お客さんが満足してくれることをね。 ★では最後に恒例の座右の銘を。 『真心』ですね。その一言です。 ちょんまげのかつらがトレードマークの高橋さんは終始ニコニコ顔で、その優しい目許は関西の芸人つるべ師匠にそっくりです。高橋さんのライフワークは、ここに立ち寄ってくれる子供たちのよき理解者である続けることです。ちなみに平均的購買金額は200円だそうです。私も200円分買ってみました。梅ジャム、よっちゃんいか、ゼリー、たくさんかかかえてちょっと童心に戻りました。 |
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※2004年1月収録 |
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