下町の顔 | FACE |
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★岡山のお生まれですね。桃太郎の発祥の地と言われていますが、桃太郎研究とかかわりがありますか? 生まれとは関係ないんですけどね。実際に桃太郎の話は岡山だけじゃないんですよ。全国に桃太郎のモデルは40くらいあります。結論を言うとね。桃太郎は江戸っ子だったんです。東京の人も学者の人もまだ知らない人が多いと思います。
国内だけではなく、実は、インドや中国にも桃太郎発祥の伝説はあるんです。インドの『ラーマーヤナ物語』は魔王に美しい妃を取られた王子様がね、森の奥に取り返しに行く。そのときの家来が猿と鷹と熊(智仁勇)です。インドの桃太郎はチベットに住むシッキム族に伝わる話があります。川から桃が流れてきてそこから男の子が生まれ、部族を襲う外敵を倒したので守り神として祀られたという話ですね。中国の西遊記などもそうです。 ★で、どうして江戸っ子だと? いろんな話をしたいから回りこくなってしまうね(笑)。それはね、1723年、享保8年江戸は日本橋大伝馬町三丁目、版元、九屋九左衛門によってできた本が一番古い桃太郎童話なんです。子供に教えておかなければならない説話として童話で存在させたんですね。良いことは子供に教えておかなければいけないでしょう。大人は死んでしまいますから。 ★まあとりあえず一番初めにできた物語が東京で、桃太郎というのは江戸っ子であったと? 童話として使われているのでは東京が初めて。それがみんな東京の人は知らない。その本は今、奈良の天理図書館に保存されています。 ★その本の中では東京生まれですね? 桃太郎の情景は田舎の情景でしょうと思われるでしょうが、東京でもじいさんばあさんはいたでしょう。宮城の周りは全部山でしょう。川は多摩川があるでしょう。東京で生まれたって不思議ではないんです。 2.100歳!その長生きの秘訣 ★それでは小久保さん自身のお話を。今年で100歳になられましたね。 東京で100になった人が何百人もいるんですが、どういうわけか私が選ばれて、大正記念館で都知事と会談しました。石原都知事は本を書かれるでしょ。私が本を出していることを知っておられました。桃太郎の話をしてくれって言われてね。20分ほどしましたね。 ★それは良かったですね。100歳になられてお若いですね。秘訣はなんですか? 何か仕事をしているという自覚は必要ですね。人間が田舎者でのろいですから、若くって死んじゃったら元が取れないですよ。だから長生きをして自分が思う仕事をやり遂げたいと思っている。人間は意地ですね。何かをやろう、と。みんなのためになる何かをやろうという意地が大切です。それからあまり窮屈では生きられない。東京都で長生きした人も独りで暮らしている人が多いです。精神的にも独立をして。死ぬということはまだ考えたことが無い。命がなくなったときに死ぬだろうと思ってますから。 ★食べ物はどんなものを召し上がりますか?
何でもおいしくいただいております。 ★下町の好きなところは? 下町は住みやすいところですよ。ぶらいないところで住みいいです。人間自体もなれなれしいというと変だけど、親しみやすいと言うか、隣づきあいもいいです。 ★100年の間に印象に残っているのは? 桃太郎少年団を作った頃ですね。研究を始めた頃。東京で少年団(現在の町会子供会のようなもの)は1000くらいありましたね。私は初代の会長で二代目は靖国神社の宮司ですね。 ★桃太郎少年団をつくられたのは何歳くらいのときですか? 昭和12年頃かな、楽しかったですね。地域の人たちと一緒になって。参加年齢は問わないでしょ。お金は町が出すでしょ。三つ四つの子は背負っていく。芋掘りだとか貝掘りに行く。歩け歩けはやる。公園見物をやる。桃太郎の旗を立ててどんどんどんどん行く。どこかの新聞にいつも取り上げられていましたね。 ★楽しそうですね。その頃私も子供だったら参加してみたかったですね。では最後の質問ですが、座右の銘をおしえてください? 私は無学の人間だからねぇ。無いねぇ。けれども希望としては、桃太郎童話という哲学童話をその子供が幸せになるかどうかということにつながるから、一生に一度は桃太郎に出会えるというようにしたい、と思ってきましたね。 ★そうですか。座右の銘ということでなくても、生きていく上でのモットーは何ですか。桃太郎は別にしても? とにかく桃太郎で忙しいからね(笑)。そうだね。夢だね。夢を持つこと。思っていれば叶うから。 桃太郎を人々に広めたい。桃太郎の話で幸せの原理を分かってもらいたいですね。 顔の色艶といい、声の張りといい、100歳とは思えない小久保さん。強い信念を持って生きてこられた方です。若い頃は保護司もされていて、対象者に対して桃太郎主義を説いて、箸にも棒にもかからなかった人を株式会社の社長にまで更生させて、法務大臣より感謝状も貰われています。柔道二段、夏は四時起床・冬は六時起床、冷水または温水摩擦、囲碁二段、新聞を二時間かけて読む。自分自身にも厳しくなければ長年の研究はできないのだなぁと思いました。 桃太郎伝説を世界に広めたい。小久保さんの思いはまだまだあふれるばかり。握手をしてもらった手は大きくて温かでした。 |
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※2003年4月収録 |
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