下町の顔 | FACE |
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2.美への意識 ★作品になった場合はいいんでしょうが、作品を生み出すエネルギーが形にならなかったときは? 皆でパアーとやるとか、古美術鑑賞とか。 ★次の作品を生み出すためには気持ちを充填していかなければなりませんよね。じゃ、それは? それが古美術かなぁ。古美術は20代の頃から興味があって、少しずつ集めはじめていましたからね。 ★デザインと古美術がどこで通じるのかなって、ちょっと疑問だったんですが? 古美術も一緒です。作り手がニーズや注文に応じて作る。大昔からそのスタイルは変わりません。表現方法が違うだけです。人々が美しいものに感動する。それは今も昔も変わらないと思います。美しいものは美しい。面白いものは面白い。決して僕の中では『古』じゃない。歴史の中に生き残ってきたものには新しさを感じますね。 ★今はキャラクターのデザインにもかかわってますね。何故キャラクターのデザインを? う〜ん、勤めていた会社がそういう会社だったからかなぁ(笑)。いくつか転職してます。 ★自分を見つけたいような思いがあったんでしょうかね? 良く言えばそう。自分にないデザインをもっとしたいとかね。今はキャラクターとか化粧品のパッケージのデザインしていますけど、キャラクターのデザインは大変なんです。例えば恐怖の表情を描いてクライアントにチェックしてもらうでしょ、するとこの目は表情に合わないって言うんです。この目はこの前はいいて言ったじゃん(ムッ!)……ってことがよくある。クライアントであるアメリカ人は感性やイメージでやってくるからね(笑)。
★これらの作品への愛着度というか思い入れはどうですか? あるやつはあるけど、ないやつはない……かな。クライアントからのピンと来ない依頼とか、こういう風にやれって言われて仕方なくやったやつは愛着が薄いですね。愛着があるのは自分の思いとクライアントの思いが一致したとき。作品というよりも人間関係なんでしょうね。人間関係がいい時はいい仕事に出来上がる。精神状態がいいから。でもそれと別に、デザインは自分たちで作っているようでも、オーダー品だからクライアントの好みに仕上げていく。四角いものもだんだん丸くなっていってしまうこともある。でもそれがデザインだって思う。ゼロからやって自分の意思が通った品物はもうアートの世界。自分で責任取らなきゃいけない。どちらも売れなきゃならないけど。 ★デザインとかアートとか、その充たされないものの先に古美術との接点があるんですかね? 自分にない美しさを、たまたま古美術の中から見つけているだけ。バランスを取っているのかもしれません。 ★新しいとか古いとかいうと下町あたりに通じるものがありますよね。斎藤さんは何故この下町に住むようになったんですか? 18歳まで北海道で育ちましたが、東京の下町には憧れがありましたね。倉本聡の『前略おふくろ様』ってテレビの中にサトイモを剥くシーンがあって、ああいう場所が深川にあると思っていた。会社で妻と知り合って妻がこの地に住んでいたから深川に来たんですね。あこがれはあったけど偶然に来たってこともある。今では住みやすいですけど来た頃はちょっと戸惑いましたね。テレビのシーンのようなところは無かった(笑)。人とも違和感があった。地元の人たちだけで、昔はどうだったあそこはどうだったという話で盛り上がられるとこちらは手持ち無沙汰でね(笑)。一緒にお酒飲んでいてもね。困った(笑)。 そのうち入れるようになって、自分が思っていた程どうってことはなかったんですけどね。 ★下町の良さはどの辺りから実感としてありましたか? 子供が生まれた頃から良さがわかりましたね。子供を連れていると年寄りが声を掛けてくれる。子供を介して保育園や地元の催し物にも入っていかれたから。 ★下町がこんな風に変化していったらいいなあと思うことはありますか? にわか仕込みの下町らしさをあえて作らなくってもいいんじゃないかなと思う。住んでいる人たちとマッチしていないし。観光的すぎてしまうような匂いが強いから、芸術性を高めるようなイベントホールなんかがもっとできてもいいと思いますね。 ★下町的に見て斎藤さんが素敵なだなぁって思う場所は? 橋です。清洲橋です。それと白河の同潤会アパートの取り壊しはもったいなかったなあ。景観を活かす道はなかったのかなぁと思う。食糧庁のビルなんかも、江東区に残してほしい建物ですね。 3.座右の銘 ★では最後に座右の銘をおしえてください。 考えたことないですね。エッみんな、すらっと言えるの。すごいね。僕は言えないね。『健康』のためなら死んでもいい、かな。 ―――――――――――― 雑談の中で斎藤さんは『年を取ったら、清洲橋を描きたい。誰のためでもなくただ描きたい』という言葉をもらしました。デザイナー魂を対価に変える『今』の反動かなと思いつつ、斎藤さんを見ましたが、柔らかい目があるだけでした。 ※2002年9月収録 |
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