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第5回『人形町界隈』2004/3/8
絵をクリックすると拡大版がご覧になれます

★路地から路地へ

はじめの路地は人形町の交差点を水天宮のほうに向いて右側の商店街を進んですぐのところ。火の用心の天水桶とそれから今でも出る汲みあげポンプのついた井戸がありますのでそれが目印です。小菊通り。短い路地ですが余りある風情です。
今日は、実は画家の菅野たみおさんが同行されています。文章を作るSORAと一緒に歩かないと絵と文章が的確にからまないのでは?と。いつも同行のカメラマンAさんもご一緒なので三人連れです。
菅野さんは要所要所で立ったままデッサンを。コンテが生き物のように画紙の上を走り、線一本の無駄もなく、的確に路地の風景が描かれていきます。絵と現実とを何度も見比べておもわず唸りました。すごいなぁ〜菅野さんの右手。画紙の中に現実がある!妙な表現ですがそんな感じ。街角に立ったままで絵を描き続ける菅野さんからちょっとはなれて
大通りを左手のほうに路地が何本か見えていますの行ってみます。
木造三階建ての古い家、銅で葺かれた屋根が碧色になっています。家の切れ目をふと覗き込むと路地、右にも左にも路地。どちらに行こうか迷います。あちら側に光があるので目の前の路地の暗さが目立ちます。まるで私が立っている「今」から「昔」を覗き込んでいるようです。
路地は狭いところで人一人がやっと通れるくらい。狭い空間から上をのぞくと、三階に張り出した窓の木枠の瀟洒なデザインが目に付きます。粋です。奥まった玄関口。ある家は二重の格子戸。打ち水。盛り塩。置屋さんの名残がそのままにあるようです。三味線の音まで響いてきそう。
菅野さんの絵はまだ終了しないようですからもう少し路地の探検をします。
やりてばあさんが襟に白いハンカチを当てて向こう路地から歩いて来たのか、と思ったら、ごめんなさい、普通の年配のご婦人でした。「こんにちは!人形町は風情がありますね」と思わずご挨拶をしてしまいました。ご婦人は「ええ、でもだいぶ変わりましたよ。芸者さんも少なくなったし、……ビルの村みたいですよ。寂しいです。ごめんくださいまし」。
……ビルの村!けだし名言。
路地から路地を抜けて、時々、各々バラバラになって、見失ったり遭遇したり。途中で甘酒横丁を横切って、ついでに紙コップの甘酒を買って、こぼさないように。菅野さんも合流して、また三人集まって、甘酒を飲みながら歩いたりしました。
かなり古いが多いです。レトロは思いっきりレトロですからすごいです。「映像として記録するべきだなぁ」カメラマンさんがつぶやいています。町並みを真剣に見上げ続けて、首が痛くなりました。

★甘酒横丁
人形町の交差点のあるところが両国橋につながっていて金座通り。水天宮の交差点があるのが新大橋につながっていて新大橋通り。甘酒横丁はそのちょうど中間にあります。横丁というので、もう少し狭い道かと思いましたが結構広かったです。そしてきれいな町並みです。でも、昔は今のところよりも南にあった小さな路地だったそうで、そう聞けばなんとか納得できます。尾張屋さんという甘酒屋さんがあったところからの命名で当時は「甘酒屋横丁」と呼ばれていたそうです。関東大震災後に今の道路に。そして名前も「甘酒横丁」にかわりました。
有名な店も多くにぎやかです。志乃多寿司総本店もこの通りです。「双葉」(豆乳プリン300円)。(じゃんぼがんもどき600円)。すごい大きさです。見ただけで満腹!
甘酒は200円、ちょっとお薄かなぁ(笑)。この先は突っ切ると明治座に行きますが、やっぱり路地を歩きたくって、横丁から外れてもう一度南寄りの路地へ。
「人形町2丁目12番」という表示が見えます。入っていくと床屋さん。「江戸前シェービング始めました」なんて看板。どんなんでしょうね。
ことことと音のする調理場があいていたので、お行儀悪いけれどもゴメンナサイ(-_-;)して覗きました。カウンターに椅子が数個、玄関のほうには大きなのし飾り。恵比寿さんと描いてあるようです。夜だけの酒席のようです。一げんさんお断りかなぁ。「花生」さんです。調理場の方にお話をうかがうことができました。
「このあたりは昔は芳町でしたから、芳町芸者と言いますね。昭和41年くらいまでは芸者さんも250名くらいましたよ。今は20名くらいですかね。置屋さんもないし、倹番も一昨年廃止になりました。変りましたね」。
芳町芸者と言えば川上音二郎と結婚した貞奴さんは有名です。海外ではマダム貞奴。この話も年配の方しかご存じないかもしれませんね。今では。
次の路地に入る入り口のところにカエルさんばかりを扱ったお店がありました。「無文館」とありました。人形町今半の隣の隣の隣にはオーダーメードの靴屋さんもありました。18,000円と書いてあります。
ぶらぶらぶらと歩いて、甘酒横丁を終了して明治座前に来ました。明治座の奥には浜町公園があります。公園に入ります。すぐそこに隅田川が流れています。高速道路も。川岸に近い公園の奥は少し高台になっています。
ここから人形町界隈を振り返った景色が最高に良かったです。まぶしい逆光の夕陽。神秘的とも言えるシルエットの中に景色が出現していました。遠景に人形町方面、中央区のビル群、中間あたりに明治座の前の銀杏並木、近景に散歩する犬を連れた一団やまだ公園で遊んでいる子供の群れ。それらの全てが陰影を濃くして、そして長〜い影を引き連れて浮かび上がっています。
菅野さんがデッサン帖を出しました。コンテが走ります。
「絵ってさぁ、想像力をかきたてるものなんだよね。ある意味。姿かたちが見えることはさっきすれ違った"アッ芸者さんかな"って思えた女性いたじゃない。見るだけで、ああ、いい女だなぁって分かるよね」カメラマンAさんしっかりうなずく。菅野さん続ける「でも絵ってね。見た後が問題。そこに行ってみたいなぁって、思わせられたら。いいよね。今みたいに自分が歩いてきた道をさ、振り返って、それが黒いシルエットで、秘密というかな、想像力をかもし出させる秘密がないとね。絵を描くとき、前ばかり見ていては駄目だね。きた道振り返るといいものがある。感覚でアッと思うものに出あえると思うよ。絵の中から、この公園で遊ぶ人の声や犬のじゃれあう音が聞こえてくるんだよね」
「今回は文章をおこすのが辛いぞぉ。一緒に歩いて絵を描きおろししてもらったんだからなぁ」カメラマンAさんが笑っています。
リッチな散歩の絵っせんすになりました。文章がきちんとおこせたかどうかはお恥ずかしい限りです。

追記
(1):さっきすれ違った女性とは、甘酒横丁で向こうからとても姿勢のいいキリリという表現がぴったりの女性が歩いてきました。すれ違った瞬間、菅野さんとカメラマンAさんの目線が同時にその女性に流れました。芸者さんだったかもしれません。周囲の視線が束になって注がれている気配もありましたしね。う〜ん粋だったんだなぁ、あの瞬間が。

(2):浜町界隈は平日でしたら、ものすごくたくさんのお店がありますが、日曜日は食べ物屋さんのお休みが多いですのでお気をつけください。パンフレット片手に歩いても、目指すお店の半分以上はお休みという感じがしました。
日曜日の浜町界隈でゆったりとお食事でしたら、水天宮近くの「ロイヤルホテルパーク」か、明治座近くの「吉兆」などいかがでしょうか。落ち着けます。

ではまた次回は5月にお目にかかります。お元気で。再見!
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