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第36回
| 「M 8」 |
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著者 | : | 高嶋哲夫 |
価格 | : | 1900円 |
出版 | : | 集英社 |
発行年 | : | 2004年 |
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関東大震災では江東区は焼け野原になった。隅田川に飛び込んで助かった人によると、お風呂のように川の水が温められていたという。
今回の新潟県中越地震では家屋の倒壊や土砂崩れによって相当の被害が出た。
もし事前に地震の予知ができれば、避難することができたのではと思うのは私だけではないだろう。
今回の作品はその地震予知に取り組む人たちの物語。
主人公は1995年1月の阪神淡路大震災で被災した瀬戸口。現在、地震研究センターで地震予知のシミュレーションプログラムの開発に取り組んでいる。
そして、阪神淡路大震災の予知に失敗した元大学教授の遠山。
瀬戸口はなにやら不気味な兆候を示す駿河湾沖の群発地震と、自らのシミュレーションで、東京直下型の地震が起こることを察知する。
地震予知というのは、実際にできてもそれを公表することの方のリスクが大きい。
交通手段を全面停止しなければならない。実際に東京に通じる高速道路やJRなどの鉄道を止めたらどうなるか。1日あたりの損失額は数億では済まない。予知がはずれた場合、その損害を誰が補償するのか。
その地震予知の盲点がこの作品の背景にある。
瀬戸口の計算では半年後。その間に何ができるのか。
ともに被災して、今では兵庫県選出の代議士秘書の亜希子に連絡を取り、代議士に働きかける。そして自衛隊の施設大隊にいる松浦にも。彼は東海大地震の警戒宣言を受けて、出動準備をしていた。松浦は地震の体験から、防災をやるために自衛隊に入隊した。国防ではなく、防災である。施設大隊というのは土木機材を有し、陣地や道路、橋などの工事を行うのだが、その活動は地震のときに役立つ。
予知をさらに正確にするため、遠山に協力を求める。
その結果3日以内にマグニュチュード8の東京直下地震が起きる。どうするか、民間団体で地震予知に取り組む鈴木たちに呼びかけ、HPの掲示板に書き込む作戦。
それによって東京は大混乱になる。瀬戸口は都知事にも会う。
都知事の決断が素早い。何の権威もない若者の訴えを聞いたのだ。
消防庁、警視庁、都庁の全職員に非常召集をかけ、都内全域に演習・警戒宣言を出した。
クリスマス商戦の真っ盛り。もしはずれたら非難は都知事に集中するだろう。
「全ての責任は俺が持つ」
トップの決断が多くの人命を救う。
ついにM8の直下地震が起きた。
外出禁止にはなっていないので、地下鉄や東京湾アクアラインでは被害が続発する。
アクアラインで炎上するタンクローリー、構内で立ち往生する地下鉄、炎上する江東区豊洲の石油タンク。関東大震災のときの被服廠跡で発生したような火災旋風も起きている。
消化作業に当たる消防庁のヘリ。中野区では防火帯を作るために、自衛隊と消防庁で協力して家屋の取り壊しも始まっている。
焼失住宅は36万棟、家をなくした人は100万人、推定被害は38兆円、経済損失は44兆円。
総理は閣僚を見渡しながら、
「来るぞ、来るぞと長年言われながら、なんら有効な手を打つことができなかった。いや打たなかったんだ」
同じように都知事も閣僚の一人ひとりを確認するように視線を移していった。
「国を治める者としての資質として、本来何が大事で何を切り捨てるべきか。それを見極める目、と言うより精神こそ最も重要なものだと信じている。そういう点から考えると、あんたらの精神はないに等しかった。そして私も同じだった。さらに国民も同じだ。目先の損得には敏感だが、将来の投資に渋い顔をする。たしかに防災は選挙の票にはならん。しかし、今後は違う。国が国民の安全を保障してこそ、国民は安心して暮らせ、国の発展にも貢献できる」
私たち国民が何を選択すべきかによって、政治の方策は決まる。 |
2004/11/16 |
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