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第33回
| 「アフリカの瞳」 |
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著者 | : | 帚木 蓬生 |
価格 | : | 1900円 |
出版 | : | 講談社 |
発行年 | : | 2004年 |
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江東区の亀戸にある「五の橋キッズクリニック」はお母さんたちに評判が良い。
「子どもだからこそ、最高の医療を受ける必要があるのです」という水沢院長の言葉通りに、最新鋭の医療設備が備えられている。
本来、小児科は投薬の量が限られ、検査もあまりできないので、採算ベースにのりにくいといわれてきた。だから水沢院長には脱帽する。待合室の遊具まで、院長自ら購入してくるという。地元では「下町のトトロ先生」と慕われているそうだ。
今回紹介する作品は、エイズの蔓延するアフリカが舞台。
ようやくアパルトヘイトから開放されたが、貧富の差は拡大し、犯罪は増加の一途だ。
人口四千万の国で、女性の百人に一人が一年間に一回はレイプされている。
そしてこの十年はエイズが増えている。五歳の少女がレイプされ、HIVに感染していた。
この国のHIV感染者は四百五十万人、毎日千八百人が新たに感染している。そして、ひどいことにHIVに感染して生まれてくる赤ん坊が毎日二百人。
五歳の幼女がレイプされて、HIVに感染するような現実。
診療所の医師が言う。
「何かに呪われているよ、この国は」
それに対して、主人公の作田医師は
「呪いじゃなく、試練だよ。この国が強くなるための試練」
と声に力をこめる。
「アパルトヘイトと違うところが、ひとつだけある。エイズは少なくともこちらが気をつけていれば絶対に襲われることはない」
「この国の黒人で避妊しようと考えている女はいません。アフリカでは子どもがよく死ぬでしょう。今はエイズでも死にますが、昔からいろいろな病気で死んでいました。だから自分が年とったときに世話をしてくれる子供を残すには、たくさん生まなければならないのです」
作田医師の妻で保健所に働くパメラも困っていた。子どもをもてない女は、女として認めてもらえない。だから、コンドームを使用しない。
効果のない抗ウイルス薬を配布する政府。莫大な新薬開発費を節約するために、臨床実験を急ぎ、人体実験を繰り返す大手製薬会社。それでも、お金のない民衆は列を成して、無意味な薬と危険な薬をもらう。
対岸の火事と決め込む日本を、作者は厳しく戒めている。
「貧困と債務にしても、日本が自分たちには関係ないとうそぶくなら、その態度は間違っている。日本のアフリカに対する対外援助は、ほかの先進国に比べても突出している。しかし、たとえ金額は多くても、援助が真の援助になっているかは別問題だ。援助が貧困をつくり出し、永続させているのであれば、一切無関係だという顔はできない」
どうすればいいのか。パメラは言う。
「エイズ治療薬を格安の価格、あるいは無料で配布するのよ。特に妊婦から始めて子供、大人と範囲を広げていけばいい」
すでに製薬会社は先進国で治療薬の開発経費は回収しているので可能だという。
「人道主義でやるべきだ」
作田は確信する。
政府に効果のない抗ウイルス薬の配布を止めさせるために、実態調査をするパメラ。
協力するのはパメラの保健指導を受けた生徒たち。
「パメラ、これは私たちの勉強よ。これまで、私たちは授業にお金を出してこなかった。だから今度くらい、私たちが出す。心配しないでいい。ね、みんな」
世界を変えるのは一握りのエリートではなく、多くの民衆だと実感する場面だ。
しかし、政府によって妨害される。作田を励ます友人。
「特にアフリカは世界がよく見える位置にあります。この国は世界を見つめる瞳なんです。三百年にわたって、ヨーロッパの強国に虐げられてきた大地なんですから、世界のひずみは、ここにいるとよく分かるはずです。たいていの人間は、それを見ようとしていないだけです」
ついに学会で政府の配布する抗ウイルス薬の無効性を発表するときが来た。横槍が入り、会場を追い出された作田たち。しかし、学会に参加する多くの医師、ジャーナリストを含めて百五十人を超える人たちが集まった。もちろんパメラの生徒たちも。
作田は訴える。
「私は人類の英知として、特定の国、つまりHIV感染が蔓延している国では、治療薬を無料にすべきだと訴えたいのです。無料化の財源は世界規模で考えれば、どこかにあるはずです。戦争が仕掛けられ、数百億ドルの戦費がただ破壊のためだけに空しく費やされています。その何分の一かの費用を、エイズに対する戦いにあてれば、私たちは確実に勝てるのです」
「特に、今回ぼくたちが調査した母子感染ほど悲しい出来事はありません。妊娠中から複数の効果的なHIV薬を飲んでいれば、赤ん坊がHIV陽性になることはほとんどないのです。この世に生を受けた赤ん坊が、生を生き尽くし、生を全うできるようにするのが、私たち大人の責務だと思うのです」
作田たちの活躍によって、製薬企業協会は開発途上国のHIV感染者の妊婦と新生児に対して抗HIV薬の無料提供する、サハラ以南の国々に対して薬価を千分の一に引き下げることを決めた。
「私が神に何がしか期待されているとすれば、それは行為を成功させることではなく、できる限り尽力することだと思っています」
マザー・テレサ |
2004/8/24 |
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