|
|
第16回
| 「都立水商!」 |
|
著者 | : | 室積光 |
価格 | : | 1300円 |
出版 | : | 小学館 |
発行年 | : | 2001年 |
|
|
第76回センバツの優勝校の済美の学園歌「光になろう」を聴いて、励まされた。
「やればできるは、魔法の合いことば」。文字通りそれを実現したナインに思わず手をたたいた。
以前、江東区大島(おおじま)の都立城東高校が甲子園出場を果たしたときも同じように「やったー」と叫んでいた。限られたグランドのスペースと練習時間で、よくここまでと思った。
今回は都立高校を舞台にした小説。しかも水商売専門のプロフェッショナルを養成する高校だ。場所は新宿区の歌舞伎町で、校舎は八階建てのビルだ。専攻は女子が「ホステス科」「ソープ科」「ヘルス科」、男子が「マネージャー科」バーテン科」「ホスト科」「ゲイバー科」。もちろん都立高校だから法律違反になるようなことは教えない。
校歌は
「ネオン輝く歌舞伎町
栄華の巷(巷)ともに生きる
我ら街の子うたかたの
夢を彩る夜の花
ああ水商
咲けよ咲かせよ
都立水商業高校」
校長先生は母が芸者をしていた関係で水商売の華やかさも悲しさも知っている。
夜の仕事に従事する人々の素顔のぬくもりの中で育った人だ。
亡くなった映画解説者の淀川長治も芸者置屋に育っているが、その解説にはいつも深い人間洞察力と優しさがあふれていたのを思い出す。
校長先生は入学式で「水商売というだけで差別を受ける場合があります。なぜでしょう?
それは、残念ながら世間において、水商売に従事する人たちのモラルの持ち方に疑問を呈するひたちが多いのです。この業界には、ほかの職業から不本意ながら転職してくる人たちが多いのです。プライドのない所にモラルは育ちません。皆さんから変えていくのです。」
と祝辞で述べている。
先日の回転ドアや回転式遊具による事故も管理者によるモラルの不在ではないか。
自らの専門に対する「誇り」。いついかなるときも不断の努力によって得られるものだ。
そして、その基礎を育てるのが学校だが、単に知識の積み重ねでは育たない。
この都立水商の野球部が甲子園で初出場初優勝する物語はすごい。
もちろん高野連は大騒ぎだし、NHKは放送をためらうし、文部大臣も動き出す。
この一連の騒動を通して、作者はNHKをはじめとするマスコミの高校野球偏重に疑問を呈している。
私たちは甲子園の優勝高校は知っていても、バスケットの高校チャンピオンは知らないのだから。
「売春とは永遠の冬を生きるようなものだ」
これはソープ科の吉岡先生のことば。先生は父親の会社が経営に行き詰まり、二十歳で業界入りした。娘の稼ぐ月二、三百万は小さな会社には大きかったが、娘の仕事を知って父は自殺した。
「私がこの学校に参加したのは、私のような思いをする娘が一人でも減ればいいと思ったからなんです。賢くお金を貯めて、誰も傷をつけずに世渡りできる方法をしえたいと思ったんです。それからプライドも教えたいって。私のプライドがおわかりですか。確かに私は、父に対して取り返しのつかないことをしました。でも、お金を人から受け取るのに、銀行員ほども人を傷つけていません。」
人生の中で誰も傷つけないで生きていくことはできない。しかし、それを自覚しているか否かで大きく異なる。人は「ごめんなさい」と心の中で言いながら生きていく。
主人公の田辺先生が都立水商での十年間の教師生活終えるにあったて次のように結んでいる。
「君たちの先輩の多くが、好きな道で人生を楽しんでいます。ですから、先日も私のために集まってくれましたが、会うとみんな生き生きしています。それはプロ野球で活躍する人も、水商売に進んだ人も、あるいは一般企業に働く人も変わりありません。
これこそが都立水商の伝統だと思います。」
自ら選んだ好きな道。たとえ曲がりくねった長い道であっても、大いに楽しんで生きようではないか。 |
2004/4/6 |
|