下町探偵団ロゴ万談ロゴ下町探偵団ハンコ
東京下町Sエリアに関連のある掲示板、コラム・エッセイなどのページ
 トップぶらりグルメくらしイベント交通万談 リンク 

下町音楽夜話

◆第586曲◆ サウンド・ジ・アラーム


2013.9.14

新盤が出たばかりのブルー・アイド・ソウル・ミュージシャン、メイヤー・ホーソ−ンのことを調べていたら、ブッカー・T・ジョーンズのアルバム情報に行きついてしまった。最初はメイヤー・ホーソーンが現代に蘇らせた1960年代70年代のソウル・ミュージックの引き出しの一つとして、ブッカー・T&MG′sもありかとしか考えていなかったのだが、そのアルバム「サウンド・ジ・アラーム」が2013年リリースの新盤であることに気づき、目が点になった。「まだ活動していたのか」というのが最初の印象だが、メイヤー・ホーソーンがゲスト参加していることに、思い切り違和感を覚えてしまったのである。

メイヤー・ホーソーンは確かに現代では貴重なブルー・アイド・ソウル系のマルチ・タレントなミュージシャンである。しかし、やたらに巧いといっても大学の軽音研的な巧さ、本物ではない臭が強いミュージシャンである。みんなそれを承知で楽しんでいるところがあり、それはそれでありなのだ。しかし、大御所ブッカー・Tのニュー・アルバムに参加となると話は違ってくる。どんな感じになっているのかあれこれ想像しながらも、せっかく聴くならアナログでと思い、注文してみた。届いたレコードはダウンロード・コード付きだったので、まずはiTunesで試してみた。そして、驚いた。非常にいいのである。正直なところ、メイヤー・ホーソーンのアルバムと非常に近い第一印象を持ってしまった。これは大御所には失礼かとも思ったが、如何せん、音が現代的なのである。とても昔のハモンド・オルガンの音とは違って聞こえるのである。ブッカー・Tといえば、ドスのきいたハモンド・オルガンという印象が自分の中にあって、非常に低音が強いという先入観があったのだが、意外にも出てくる音すべてが、軽やかでスマートな現代の音なのである。これは違う、ブッカー・Tの音じゃないと思いつつ、曲がいいので許せると言った方がより正しいか。

もともとハモンド・オルガンの音は、空気感に富んだ重厚なもので、シンセサイザーがポピュラー・ミュージックの主流になる1970年代までは、実に一般的なものだった。その後もテクノ系の音楽の普及とともに、ピコピコという電子音が多くなっていき、重厚なオルガンの音は、1980年代には一端は消え去ってしまったように感じた。1990年代に入ってからは再評価の機運が高まり、オルガンの音は着実に復活する。しかし、サンプリング音源を使う機種しか製造されず、昔ながらのヴィンテージものを買い求める動きも盛んになったものだ。トーンホイール・ジェネレイターやレスリー・スピーカーの構造から、どうしても大きく嵩張るもので敬遠されることは十分に理解するが、やはりサンプリングでは再現しきれないよさがヴィンテージ・ハモンドにはあるのだろう。実際のところ、代名詞のようになっていたB−3のほか、200種とも言われるバラエティを誇るハモンド社だったが、権利関係が部門ごとに譲渡されたりして複雑になってしまった。しかも、現在は日本のメーカーが製造しているという。是非とも、日本の技術で、あの豊かな中低音を誇るヴィンテージのレプリカを製造してもらいたいものである。

そんなハモンド・オルガンの音の代表といえば、ディープ・パープルのジョン・ロードやキース・エマーソンなどの名前を思い浮かべてしまうが、やはりブッカー・T&ザ・MG′sの「グリーン・オニオン」も忘れられない。あの豊かな中低音があってこそ、あの曲の迫力が出るのではなかろうか。残念ながら、現代のブッカー・Tの音にはあの迫力は微塵もない。それでも、人の心をつかむポップネスは健在のようで、このアルバムの印象は頗るよい。インナー・スリーヴには息子をはじめとした若い世代のゲスト・ミュージシャンたちへの賛辞的なメッセージが綴られているのだが、これもいい味を出している。タイトル・チューンに参加したメイヤー・ホーソーンに関しては、ダリル・ホールに紹介されたようだが、心からフィラデルフィア・ソウルを愛している様が伝わってくる素敵なメッセージである。

また、クレジットから察するに、この盤の音のキー・パーソンはボビー・ロス・アヴィラというギター、ベースのみならず、オルガン、ピアノ、シンセなどのキーボードもこなす人物が握っているようだ。プロデュースもブッカー・T・ジョーンズとアヴィラ・ブラザーズということになっている。大勢のゲストを迎え入れながらも、見事にアルバムの統一感を失わない音作りを実現している実力は只者ではない証明だ。現代のソウル・シーンに明るいわけではないが、ラッパー中心のヒップホップ系がすっかり主流になってしまった現在、新たなソウル・ミュージックの萌芽に関しても、捨ててはおけない面白い動きがあるようだ。


江東区、墨田区、中央区、台東区のネットワークサイト