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下町音楽夜話

◆第514曲◆ スカイツリーと「イパネマの娘」


2012.4.28

先日、ホテル・イースト21で歓送迎会があったのだが、出てきたビール瓶がしっかりスカイツリーとのコラボレーション・ボトルだった。具体的な商品名を出すのは憚られるのだが、この際だから許してもらおう。アサヒビールのスーパードライの中瓶が、スカイツリーのデザイン・ラベルになっているのである。サイトを覗いてみると、5月22日のグランド・オープンまでのカウントダウンもやっている。考えてみれば近い位置関係だ。墨田区や周辺地域にとっては、歴史上最大の商機であろう。昨年の大震災さえなければ、もっと思い切り盛り上がったのかなと思うと、ちょっと残念ではあるが、この際だから、もっと手放しに盛り上がるべきではなかろうか?グランド・オープンの前日には東京でも金環日食が観測できる日である。せっかくなんだから一日前倒しして、スカイツリーで金環日食の観測会でもやればいいのにと考えてみたものの、数ヶ月先の入場券を抽選で売っている状態というのだから、これ以上ヘタに仕掛けると町がパンクするかもしれない。しばらくは近寄れないと考えるべきなのだろう。

下町音楽夜話第279曲で「東京タワー」について書いたことがあるが、2007年の当時はまだ新東京タワーと呼んでいたようだ。デザイン的には圧倒的に東京タワーのほうが美しいとは思うが、何であれ経済効果は巨大だろうし、町の景観に与えるインパクトは言葉では語りつくせない大きさなのではなかろうか。スカイツリーの建設前と後とでは、この町の景色は激変したはずだ。最近では、もうそこに屹立しているのが当り前になってしまったが、やはり巨大な構造物が常に視界の中にあるわけだから、近所で育つ子どもたちの人生にも、少なからず影響を与えるように思う。空を見上げる余裕があれば、いつだってそうしていたいが、東京の下町で慌しく暮らしていると、狭い空の一隅に必ず見える巨大構造物は、将来懐かしく振り返るであろう記憶の中にしっかり根付いているのだろう。それこそ100年、200年に一度あるかないかの巨大な現実として。

まったくもって、人間は偉大だと思う。あんなデカイ構造物は他の動物では当然ながら造れない。高速で移動する新幹線や飛行機に乗ったときにも感じるのだが、人間の底知れぬパワーに興奮してしまうのだ。勿論大海原を見て自然の大きさに興奮することもある。素直な気持ちにもなれるし、余分な想像力など必要ない直截的な感動に包まれるのだから、こういった感覚は万人に共通なのではなかろうか。自分は山には登らないが、おそらく登山の達成感だって、似たようなものだろう。そういった非日常の世界を見せつけられると、人間というものは、興奮するようにできているようだ。自分の小ささを忘れてしまわないことも同時にできればいいのだが、そこはなかなか難しいようで、自分が偉くなったように勘違いする場合もあるから、やはり愚かしい動物でもあるのだが。要するに非現実的な体験をできるものが近くにできたことは、素直に喜ぶべきことなのだ。現実逃避の機会が増えただけといって済ませてしまうにはモッタイナイ、モッタイナイ。

結局のところ、音楽だって、結構な現実逃避ツールにはなり得るのだが、こちらはもっと、もっと、想像力を要求されるところが大きな違いではあるだろう。人によっては音楽が必要なということもある。自分の場合は音楽がないなどということは想像もできないが、仕事帰りにiPodで聴く音楽など、毎度、毎度、短時間で気持ちの切り替えを手伝ってくれる有り難いものなのである。先日、仕事帰りにシャッフルして適当に音楽を聴きながら歩いていたのだが、ゲッツ・ジルベルトの「イパネマの娘」が始まったと同時に、夜景に浮かぶスカイツリーが目に飛び込んできた。試験点灯か何かなのだろうが、これから毎日のようにライトアップされたスカイツリーの眺めが、身近なものになるのかと思うと、妙に嬉しくなってしまった。日常の中に非日常の象徴のようなものが溶け込んでいるのだ。嬉しくなってしまうのは自分だけではあるまい。

大使館側のアメリカ進出の思惑やら、「いいもんみっけ」的なスタン・ゲッツの思惑やら、そして極めつけのアストラッド・ジルベルトのヴォーカルをメインにフィーチャーしてしまったシングル・カットなどなど、パジャマを着た神様、ボサ・ノヴァの創始者の一人、ジョアン・ジルベルトにとって、この曲はあまり楽しい思い出ではないのかもしれない。しかし、聴く側にとって、やはりこの曲の爽やかさは別次元のものであることは事実なのだ。周辺の事情などいろいろあるのだろうが、のほほんとした世界一の素人、アストラッド・ジルベルトの歌声は、瞬時に夕日が輝く浜辺に連れていってくれる、世にも稀なる現実逃避マシンなのである。混迷都市東京のダウンタウンで光り輝くスカイツリーの眺めと、別世界に誘うようなアストラッドの声は、恐ろしいまでにシンクロして、心を落ち着かせてくれる。この取り合わせは、仕事で疲れた帰り道、癒されるどころか、ちょっと嬉しくなってしまうこと請け合いだ。


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