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下町音楽夜話

◆第187曲◆ ハウンドドッグ
2006.1.21
ラップ登場前後で、ソウルを取り巻く状況は一変した。それまで普通にソウルと呼ばれていた音楽が、いったんはほとんどチャートから姿を消してしまったころから、ソウル・ミュージックを全然聴かなくなってしまった。従って、最近のものはあまり詳しくないが、それでも、興味がないわけではない。いつの時代でも、若い才能が頭角を現すときは気持ちがいいもので、ローリン・ヒルなどは、「天使にラブソングを2」というコメディ映画で目にして、この娘は絶対ヒットすると思っていたら、直ぐにチャートを駆け上ってきたので、実に嬉しかった。売れるべき才能は、輝きを隠せない。

最近では、圧倒的に存在感があるシンガーとして注目しているのが、メイシー・グレイである。かなりヘンな声の持ち主だが、その才能は誰もが一瞬で認めざるを得ないほどの存在感を持っている。ヘンな声という表現も、他に言葉が見つからないのだが、ドラエモン声的とでも言うべきアニメ声にも聞こえるし、海外ではヘリウムガスを吸ったロッド・スチュアートなどという評価も得ているようだが、ワン・アンド・オンリーの個性的な声であることは確かだ。本人にとっては、案の定、若いころは相当のコンプレックスだったようで、人前で歌うなどということは、想像すらしていなかったようだ。しかし、やはり隠れていることを許されなかった才能なのだろう。かなりの挫折も経験しているようだが、デモテープがうわさになり、大手のレコード会社が獲得戦を繰り広げたというのだから凄い。

そんな彼女を、最近、意外なところで目にしたのだ。ブルース誕生百周年の2003年、マーティン・スコセッシ監督がブルース・ムーヴィー・プロジェクトを取り仕切り、多くのブルース関連映画が撮影されたことは記憶に新しいが、その締めのような一本として、ある特別な一日の、ニュー・ヨークはラジオシティでのステージの模様を捉えた記録映画「ライトニング・イン・ア・ボトル」に出演していたのである。全然ブルース・シンガーではないので、場違いではないかと不思議に思ったものだが、ここでも周囲が放っておけなかったのか、本人の意向ではなく、歌わされてしまったようである。その様子は、舞台裏を巧みに捉えたこの映画の中でも、かなり特筆すべきシーンとして捉えられており、一度目にしたら簡単に記憶から消えることはない。

映画の中で彼女は、エルビス・プレスリーの「ハウンドドッグ」をかなりアグレッシヴに歌って見せるのだ。しかし、この本番のステージだけ観たのでは、彼女の才能を理解することにはならない。何せ、当日のリハーサルの場で、彼女は「どうやって歌うの?」と他人に訊いているくらいなのだ。やらせかと疑いたくなるほどだが、観客を前にしたときの姿とあまりに違う舞台裏での彼女の様子は、素のままと言うしかない。おそらくステージ上のキャラクターが作られたもので、本当の彼女の内心は、今でもコンプレックスまみれのシャイな少女のままなのではなかろうか。実は、この映画、劇場では観てないが、それでもDVDは発売前から注文して入手していたのだ。そして、初めて観た直後に、早速「ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・メイシー・グレイ」というCDを注文してしまったほどだった。

このベスト盤が少々クセモノで、発売各国で収録曲が異なっているのである。普段はUSA盤かUK盤を購入することが圧倒的に多いのだが、この盤に関しては、国内盤を購入した。というのも、テレビ・コマーシャルで使われたクイーンの「ウィ・ウィル・ロック・ユー」のカヴァーが収録されているからなのだ。このテレビ・コマーシャルは当然ながらそれほど長い時間のものではなく、中途半端に彼女のヘンな声の「ウィ・ウィル・ロック・ユー」を流すものだから、自分など全くよさが理解できなかったどころか、むしろ敬遠してしまったほどである。また、エアロスミスの「ウォーク・ディス・ウェイ」のカヴァーも収録されている。このロック系の2曲は、当然ながらかなりアレンジが加えられているが、やはり繰り返し聴いてしまう。体の中に正確なリズムを持っている人間特有の、絶妙なタイム感が何とも心地よい。とにかく、この辺を確認してみたかったのである。

メイシー・グレイのライブは、かなりアグレッシヴだということだが、それはそれで、彼女のひとつのキャラクターなのだろう。しかし決してそれがすべてではないのが、スローな曲の歌の上手さに現れている。とにかく、前述のベスト盤のアタマ4曲だ。これだけ聴けば、もう誰もが納得するだろう。ソウルやR&Bにとどまらない、その柔軟性という意味では、ローリン・ヒル以上の逸材かも知れない。また、彼女は映画でも注目されている。「トレーニング・デイ」や「スパイダーマン」などに出演しているということだが、まだ観ていない。ともあれ、楽しみなキャラクターだ。

「江東区伝統工芸会」という、伝統工芸に従事する若手の職人さんたちが結成している団体がある。ときどきイヴェントを開催しているので、ご覧になった方もいらっしゃるかと思うが、先日鎌倉の小町通りから路地をちょっとはいったギャラリーでイヴェントをやるというので、ドライヴがてら覗きにいってみた。想像していた以上に、伝統的な技を現代的なデザインセンスと融合させた魅力的な工芸品が展示されており、ちょっと嬉しくなってしまった。物を売らなければ生活はしていけないし、後継者も育たない。大変な苦労もして、何年もかかって伝統の技を身につけるのだろうが、それを表現する手段が、以前とは比較にならないほど豊富にある現代、こういった分野がもっと注目されるチャンスが生まれてきているように思う。

インターネットの双方向性は、即自身が発信者になれるわけだし、ヴァーチャルな世界が生活の中心になっているからこそ、伝統工芸の温もりや手触りを大事にしたものが求められる時代環境になっているように思えてならないのだ。若手の台頭が即世代交代というわけでは決してない。しかし、将来のことを考えると、若手が頑張っている世界には、可能性が大きく開けているように思う。どんな世界でも、売れるべき才能は、輝きを隠せない。その可能性を、潰さないようにしたいものである。

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