下町の顔 | FACE |
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第24回 『亀戸・老舗の風雲児』 |
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株式会社船橋屋 専務取締役 渡辺 雅司さん |
だれもが一度は食べたことのある「くず餅」。黄な粉の山を滑り落ちてくる黒蜜を、もう一度山に盛り上げながら、家族で食べたあのなつかしい味。1805年創業以来、亀戸天神様のすぐ近くに、時代の趣のある本店があります。『船橋屋』と書かれた欅の一枚板の大看板は、文豪、吉川英治が唯一残した直筆。それを観るのも楽しみで訪問しました。 1.くず餅は発酵食品 ★くず餅の歴史からお話を伺いたいのですね。 関東では<くず>か、久しい寿で<久寿>ですね。原料に葛を使っていないので<葛>の字は使いません。本葛は実際のところお菓子になるほどには美味しくないものなんです。
★初代の方が作るようになった経緯というのは? 船橋屋の名前の由来にあるように出身は船橋なんです。農家なので小麦を作っていまして、それをつかってお餅を作れないだろうかとずっと考えていたんですね。で、良くお参りに来ていた亀戸天神様が非常に賑わっていたんで、ここで一花咲かせられないものかと。境内の軒先を借りて、お餅を竹の皮に包んで、大豆を引いた黄な粉の上に蜜をかけたんですね。それがものすごくヒットをしまして、一気に名前が出て、明治初期の瓦版のうまいもの番付で横綱になったという記事が残っていますね。 ★そうですか。くず餅というのは小麦粉のでんぷんが原材料だったんですね。それをどうするんですか? 余りご存じないと思いますが、和菓子の中でくず餅は唯一発酵食品なんですね。大体14ヵ月位かけて発酵させています。くず餅作りはお菓子作りというよりも、その年々の小麦の作柄や発酵度合により左右されるという点では造り酒屋さんに近いですね。どちらかといえば、冷夏よりも猛暑を越した翌年の原料はよく発酵もすすみ弾力が出やすいんです。ですから今年の暑さを考えると来年は非常に美味しいお餅が出来ると思います。 ★店頭に並んだときの保存は大丈夫なのですか? 常温で大丈夫ですけど、14ヶ月かけて発酵させて蒸しあげて、2日しか持たない。はかない食品ですね。 ★2日間の命ですか? 保存剤を入れていないのでカビは5日目頃からでるんですね。賞味期限の2日というのは弾力があって美味しく食べられるのが大体48時間ということです。保存剤を入れようと思えば入れられますが、我々のポリシーに反しますね。保存剤は体に悪いですから使いたくない。自然のままで売りたい。ですから関東圏内で販路をあえて抑え、目の届く範囲で商いをさせていただいてます。
ところが今、インターネットでのご注文数が倍々で伸びているんですよ。もともとネット慣れしない商品ですよね。でも届いたその日に食べてくださいよ、というのがお客様にとってたまらないようですね。お客様の方も、何月何日何時何分!その日にみんな集まって食べるんだからそこにちょうだい!って指定してくるんですよ。 江東区内の方からもネット注文をいただくんですよ。江東区は南北の交通網がちょっと不便だから、そのあたりも理由かなと思うんですが、区内の南の方からのご注文もいただきますね。750円のくず餅に500円の宅急便代を払って買っていただけるんですね。往復のバス代や手間暇考えたら、送料とがどっちこっちということもあるんでしょうけどね。 ★くず餅を作っているところは他にあるんですか? いくつかあるんでしょうけど直販をやっているのは少ないですね。片手くらい。デパート関係は船橋屋だけですしね。 ★元祖というのは周知されていますが、デパートのほうでも信用を置いているということですね。 くず餅というのは小麦のどこの部分を使うかということで、全く品質が違ってしまうんですね。お米と一緒で麦も削れば削るほど白くなりますから、くず餅も白くすることは出来るんです。麦の外側を使えば使うほど粗悪で、色も悪くて発酵臭も強いものが出来てしまいますからね。材料コストは上がりますが小麦の真ん中の白いところを多く使います。ただし真ん中を使うと弾力が出てこないという問題が発生するんですね。ですから、白いところを使って弾力もあるというくず餅をつくる技術が必要になります。 ★それは企業秘密ですか? ええそれはもう秘密です(笑)。発酵過程も、水も、温度管理も、蒸し方も。それが元祖としての我々の存在理由でもある訳ですから。 |
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