下町の顔 | FACE |
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第20回 『繊細な美を作り出す"手"』 |
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あめ細工 青木 喜さん |
カンテラの鈍い光、アセチレンのにおい、小さな鍋であっという間に膨らむカルメラ。大人の腰の間から人だかりに首を突っ込む子どもたち……。おおよその人の心の中にある縁日風景です。そんな記憶の中であめ屋さんは、干支のウサギや跳ね馬を握りバサミ一つで創っていました。今日はあめ細工の青木さんをお訪ねします。 1.手の皮は薄いんだよ ★あめ細工の歴史は古いんでしょうか? 享和元年、1801年ですね。大阪で発祥したといわれています。あめそのものはその200年くらい前に越後でできたって聞いていますね。
昔は吹いて風船のようにして作られたんですね。でも、今は吹いたら駄目です。保健所から怒られる。今はこのように中は全部あめですね。 ★例えば、あめ細工というと、露天商というイメージがあるでしょうけれど、その頃から露天商があったのですか? ありましたね。昔の絵にもありますよ。 ★そうそう。なんか思い出しました。小さい頃、露天商で吹いていたのを見た記憶がありますね。作り方としては、まずあめを仕入れてくるんですか? そう。水あめをね、煮るんです。煮たものをさらすんです。さらして白くしたのは私が最初かな。昔はあめ色でしたからね。 ★さらすというのはどうやるんですか? 空気を入れるんですよね。そうすると白くなりますね。 ★他のあめ屋さんはどうしているんですか? 金太郎飴屋さんで売ってるから買ってくるんじゃないかな。それは砂糖が入っているんだよね。私が煮るのは砂糖が入っていないから何日たってもかびないですよ。でんぷんだけだからね。 ★でんぷんだけでなんで甘いんですか? でんぷんの自然の甘味だね。片栗粉を取るときに一番下によどむのを使うんですよ。その一番いいところがあめになっているんです。きれいな透明ですよ。入れてある缶の底の模様まで見えるくらいに透明。硬いからお供え餅のような形にして袋に入れて持って歩く。温めればいつでも使える。 ★露店でやられるときは、そのあめの袋とあとは何を用意するのですか? あめを温めるためのたどんを持って行くのね。植木鉢のようなものに灰を入れて下を塞いでおいて、鉄板を全部張って火が通らないようにして。電熱器のほうがニクロム線があるから楽よ。でも電熱器でやると生火がもろに出てくるから危ないのよ。その点、たどんは大丈夫。灰かぶっているから。危険性がない。 ★あめが溶けてしまったりしないんですか? だから灰をかぶして調節して行くの。現場に着いたらちょうどいいような硬さになるようにしておく。 ★熱くないんですか? 72、3度ありますから、そりゃ熱いですよ。大やけどしたこともある。 ★そんな熱いものが持てるって、手の皮が厚いんですか? いやいや、厚いんじゃなくて反対に薄いんです。手の皮が厚いと、あめに手が突っ込み過ぎてしまうからいいものができない。手の皮は薄くしておかなくてはいけない。だからうちの息子も水くぐりをしますよ。特に仕事休んでいるときは茶碗くらい洗わせてよって、水くぐりして、柔らかい手にしておく。
十二支では龍が一番かかって5、6分かな。ウサギは30秒くらい。ウサギは一番簡単なの。伸ばすのは手で伸ばしてあとは耳の形を合わせて、ポンポンと切ると終わり。指先できゅっと手を入れてしまえばあごができるしね。 ★作品の賞味期限は? ないです。でんぷんだから腐りもしないしね。35度くらいまでなら置いておいても大丈夫。 ★いまは主にどこでやられますか? 露店を辞めたのはもう20年くらい前かな。浅草をやって靖国神社が最後だったな。今は保証で請け負ってやるイベントが多いね。ホテルのパーティとか市町村祭りとかラーメン博物館とか。計算は100個で行くけど、100個じゃすまないね。難しいのをやると少ないかもしれないけど、簡単なのも入れたら100個ではすまない。 ★昔から比べたらやる人は減っているのですか? いや増えているよ。見よう見まねだけでやる人がね。おもしろいんだよ。俺のとこ来て、あれずいぶん熱心に見学してるなぁって。で、次にその人あめ細工やってんの。はい馬!って渡してる。私らからみたら馬だか何だかわかんない。もう、びっくり。馬って言ってもね。おとなしい馬、暴れ馬、競馬、ユニコーン、ペガサスってみんな作り方が違うのよ。国によっても馬の形がある程度違うんだから。単純な形だけでお客さんは納得しちゃうのかなあ……。たどんであっためて大事に作っているのはうちと息子のところくらい。 ★流行はあるんですか? ああ、あるある。テレビのキャラクターものね。 ★そういうものは練習するんですか? いやぁ、形見れば大体すぐにできるから特に練習はしないですよ。 |
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