下町の顔 | FACE |
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★いままで何点と言う言い方は変かもしれませんが、なん機種くらい作られましたか?
★誠心誠意、いい言葉ですね。どうもありがとうございました。そんなの言ったらきりがないよなぁ。 数を言ったらきりがない。目的が全部違うから。岩盤や砂を持ってくる。一箇所の窓が開いたら次はそれを閉じてまた次の窓が開くようにとかね。そんなような装置までやったわけですよ。重さも微妙。だから塗装を少しでも削って重さを調整するとかね。 ★宇宙開発の仕事は何年くらいやられているのですか?
なんだかんだで20年くらいですね。 ★宇宙開発関係って、仕上げの精度がかなり厳しいでしょうね。 俺は仕事を請け負ってくるだけだけど、現場はなぁ。 ちょっとの傷でもつけてはいけないからなぁ(と一人の職人さん)。 ★設計図無しでイメージだけで依頼されることはあるんですか? ありますよ。でもこちらの意見、こうしなければ駄目だということを先方の学生さんが聞いてくれるんですよ。今現在新しいものを作ろうとしている人たちですけれども、こうでなければだめというごり押しはないですよね。その点はすごく助かりますね。 ★そう考えると仕事って人間関係ですよね? 人間関係ですね。うちらははっきり言って中卒。お前高校出てるのか。 中退だよ。(チャチャが入る) うちら計算ができません、って言うと向こうが書いてきてくれる。依頼してくる人たちは最高学府を出ているけれども偉ぶらない。その点はね。今の若い人がどうのこうのと言われるけれどもね、いい人はいっぱいいますよ。 ★あのぉ恐縮ですが打ち上げ失敗してしまうことありますよね。その時はどのような気持ちですか? 言われるよ。その時は。落っこちゃったね、って。俺のせいじゃないっつうんだけどね。辛いけど新しいものに失敗は付き物でしょ。仕方がない。 そうそう。(と、もう一人の職人さんが言葉をつなげる) その仕事に挑戦する、取り組む、めんどくさいなぁって思ったらもう駄目。ロケット落ちたニュースは嫌だけどね。 ★優越感みたいなものありますか? (皆さん口々に) ないない。それ言ったらおしまいよ。 うちあたり何やっているか近所の人は知らないし、一切言わない。だからインタビューなんかやりたくない。目立ちたがり屋じゃないから。みんな。 やれば恥ずかしくなるばかりだよなぁ。 2.『声をかけないでください』って張り紙が・・・ ★こういう宇宙開発の仕事って、ある程度年季が入ってないとできないものですか? 関係ないね。職人の腕。集中力を要するから精神力と忍耐力が必要ではあるけどね。 ★皆さん方の年代の方たちでないと築けないものですね。 そうかもしれないな。難しいところに穴あけるから。1ミリの100分の1という作業を3日か4日やっているから胃も痛くなるよ。それに一個失敗すれば例えば700個がパアーになる可能性もある。工場の柱に、仕事に集中しているから声をかけないでくださいという紙を貼ってあることもあるよ。 ★用事があって声かける時は? (職人さんたちが言う)かけさせないし返事もしないよ(笑)。
町工場はこれからどうなっていくと思いますか? 厳しくなるんじゃないんですか。景気もさることながら環境がね。だんだんマンションも増えて横の関係だけの住民の付き合いでなくなってくるでしょ。騒音とかね……。 ★ではちょっと趣を変えて、下町の良いところはどんなところだと思いますか? うちらより年が上の人たちが生きていた頃は、縁台将棋や囲碁やっていっぱい呑むかってやっていたから良かったよね。それでもまだこの辺はマンションの人たちとも話ができて、その辺の路地で子供が遊んでいると、自動車を仕舞うときでも子供が遊び終えてからでいいよ、なんてことはまだ残ってるよね。 ★裏に線路がありますね。線路の脇の土のところが畑になっていて、いろいろな野菜が作られていますね。ああいう感じが昔のそれに近いということですか? JRの土地なんだけど、自分の前の土地は俺んちのだぞって感じになっちゃってるね。実が生っているから採っていいよって、電話がかかってくる。でも行ってみるともう先に他の人が採ってなくなっているんだよな(笑)。昔はこの線路のところで山羊も飼っていたそうですよ。雑草を食べさせるために。 ―――この辺りから本格的な酒盛りになってくる――― ★逆に下町のきらいなところってありますか? (皆さんそれぞれ返答) ないよ。嫌いも何も。嫌いなところはないなぁ、俺は。 おせっかい多いよね。俺のこと時々見にくるんだよ。死んでんじゃないかと思ってよ。(一同爆笑) ―――わいわいがやがやの話が始まる。数分後、じゃ俺帰るわ!と職人さんが一人帰る――― ★では最後の質問です。座右の銘を? 座右の銘ってことではないけど「誠心誠意」だね。裏表無しで喜怒哀楽をちゃんと表す。こうじゃないかといいたいときは言う。駄目なら謝る。自分をさらけ出してそれで嫌われれば仕方ないし、悪いところがあればそれを自分で治す。いいかっこしちゃったって絶対ばれるんだから 寅さんの映画に出てくるような町工場でした。線路の脇の油染みた工場。ギシギシいう階段を上がった2階の事務所。ここで試行錯誤されたものが、無人探査機という形になって宇宙に飛び出していくとは不思議です。 住宅街化しつつある下町にぽつんとある魔法の町工場。そんな印象でした。ご多分に漏れず高齢化の波が押し寄せている気配もします。健康で過ごされますように祈りながら辞しました。 |
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※2003年7月収録 |
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