- 1960年代中期、白人ブルースの隆盛からサイケな時代を駆け抜けていったヤードバーズは、エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジという1970年代には3大ギタリストと呼ばれた連中を輩出している。この3人、いずれも異なったルーツを持っており、しかも恐ろしく個性的であり、同じ曲を演奏してもかなり違ったものになる。この個性的な連中に振り回される憂き目にあったヤードバーズの、そのほかのメンバーが、なんと最近35年ぶりにニュー・アルバムをリリースした。ジェフ・ベックが参加していることもあり、発売日にわざわざ出かけて行って購入してきた。ニュー・アルバムと言っても、半分以上は昔の曲の焼き直しである。1960年代を彩った名曲群を現代風にアレンジしてあると言うが、ほとんど印象の変わらないそれらの曲は、新曲よりもやはり耳に心地よい。元気にやっていたことだけでも嬉しいが、同窓会的に次々再結成される古いグループのなかでは、結構現役性を感じさせて嬉しくもあった。この時代のミュージシャンたちは、寄ればロカビリーのカヴァーなどを演奏して、ライブでは非常に楽しそうにしている。高齢化も楽しもうと思えば楽しめるはずであることを示しているようで、嬉しくなることがある。この連中、かなり精進していたのか、演奏は意外なほど上手くて驚かされる。
- 1960年代後半のロンドンは、ロックの時代を象徴する活気を呈していた。スウィンギン・ロンドンと称される、輝かしい活気に満ちた数年間があったことを感謝せずにはいられない。この時期ロンドンから世界に羽ばたいたアーティストの何と多いことか。音楽家だけに留まらず他の分野のアーティストも同様で、全てのジャンルで現在に連なる活躍の軌跡の出発点がここにある人は多い。同時期に一つの都市に於いて、これほどアート活動が活気を呈したことなど、世界中の歴史の中でも類を見ないのではなかろうか。中心的な部分にはローリング・ストーンズやビートルズのメンバーもいた。サイケに走る直前の何とも粋なスウィングを、雑多な背景を持った連中が新境地を切り開くことに邁進し、しのぎを削っているようである。スモール・フェイセズなどモッズの連中も、この時期の忘れてはならない重要なアイコンの一つである。
- 現代からさかのぼって彼の時代を読み解くときには、「欲望(ブロウ・アップ)」という映画がよく引き合いに出される。ストーリー的にはあまり面白くないのだが、ヴィデオは持っている。サントラ盤はハービー・ハンコックの演奏がほとんどで、意外にも楽しめるが、結局当時最も先鋭的と扱われていたのは、やはり少しジャズ寄りの音楽だったのだろうか。しかしここでは、そういったことはどうでもよい。何と言っても、演奏するヤードバーズの姿が登場するのである。しかも短期間に終わったジェフ・ベックとジミー・ペイジの2人が両方とも在籍している時期の映像なのである。そういう意味で、ヤードバーズは、スウィンギン・ロンドンのパブリック・イメージそのものになっている節もある。同時代的にその時期のロンドンを体験した人間は、違うと言うかも知れないが、全てがアート然として尖がっていた時代なのである。街自体がスウィングしているようにも感じられ、「スウィンギン・ロンドン」とは実によく言ったものだと思う。
- ナイトクラブ中心の、どちらかと言えば遊び慣れている連中が作り出したムーヴメントかも知れないが、結果的には1966年、67年頃のバカ騒ぎが伝説的にそう呼ばれているだけかも知れないが、ロックもジャズもソウルも渾然として、新しいものを生み出す原動力が、何かしらそこにはあったはずなのだ。エリック・クラプトンはブルース・ブレイカーズ後のニューバンド、クリームで華々しいライブをやらかしていた時期でもあるし、ジミ・ヘンドリックスもこの頃にロンドンで人気が沸騰し、ブレイクする。舞台がナイトクラブから大掛かりなホールや野外コンサートに移っていく前なので、みんな知り合いなのではと思わせるような、小さな社会の中の出来事ではある。とても一人二人の仕掛け人が創作した空騒ぎではないことだけはよく判る。従って企画性もないので、終わりも早かったのだろう。
- 下町に暮らしていると、楽しいことがいろいろ起こる。なぜなら次から次へとイベントや企画を仕掛けている人間がいるからである。ともかく、いろいろな連中が商売を抜きにして活動しているのが面白いとも思う。そしていつもその人の輪の中に、同じ顔が見えたりもする。下町探偵団の元さんはその一人であろう。とにかくこの連中は、金にならないことも楽しんでやっている風である。原動力は「下町が好き」ということなのかもしれないが、これが結構活気付いているような気もする。「スウィンギン・ロンドン」ならぬ「スウィンギン・ダウンタウン」、・・・雰囲気が出ないな、「スウィンギン下町」の方がまだいいか、こういったムーヴメントはいかがなものか。寺町で坊主を躍らせるつもりもないが、商店街や地域の活性化なら十分にスウィングしそうな気がする。ファッションは地場産業だからオーケーかも知れないが、音楽やアートがついてくるか、今後が楽しみだ。こちらは早く終わってしまわないことを、切に願う。
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