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特集
今月の特集 情報の達人
2004.5.19更新


 面白く楽しく肩肘張らず   

      人に会う事が情報の源

   下町探偵団 主催
 鈴木 祥元(すずきよしはる)氏

   http://www.shitamachi.net/

 下町探偵団は、江東区、墨田区、中央区、台東区の下町地域ネットワークで、下町の良さ、面白さを紹介しているwebサイトです。
 このサイトは印刷会社経営者で、地元でベーゴマ教室を開催している好事家、鈴木祥元(すずきよしはる)さん中心に、勝手に作って、自主運営されています。
 儲けようとも、地域起こしに貢献しようとも思っていない様子で、仲間内で楽しく面白がっているだけなのに、なぜか非常にクオリティが高いサイトになってます。
 ボランティアでニコニコしながらやっている姿勢、思い入れと採算度外視が、傍から見ていてなんだか気持ちいい方です。
 そんな下町探偵団主催の鈴木さんに、情報発信のヒントについて伺いました。


 ● 「下町探偵団」を始めるきっかけは?

 本業の印刷業では、パソコンでデザインしたり加工したりします。それだけパソコンを扱うノウハウは、他の人より長けてるんです。HP作成も、画面が1枚の印刷物だと思えば、本業と同じ様な作業になります。印刷業者はHP作成に入りやすいんですね。
 そこで、せっかくスキルがあるんだから、本業の傍、HPをちょっとかじってみようかと思ったのがきっかけです。4年くらい前ですね。
 せっかくHPを作るからには、そこで何をしてみよう、「この辺り」のことを調べてみようと思ったんです。
 この辺は、江東区、墨田区、中央区、台東区の区境が密接しています。自宅は江東区内なんですが、隣の墨田区には歩いて数10秒で入れます。
 商売ッ気を出すなら、「この辺り」を江東区とか墨田区といった行政区分で分ければ、メリットがあるでしょうね。範囲が明確で内容を作るのも楽だし、検索しやすいからアクセス数や知名度にも影響すると思います。
 でも、基本的には自宅から半径1Km圏内を範囲にしてます。そういう意味では、自分本位で全然所商売ッ気はないですね。気分でやってますし、楽しいからやってるんです。

 ● 最初はどの辺りから記事にされたんですか?

 最初は調べる事が面白かった。
 この辺りは、東京では歴史の古いエリアで、調べれば調べるほど、色々な事が分かってきます。
 古い地名に様々な由来があったり、日本で初めてできた物がこの辺りにあって、しかも結構数が多い。
 1年間は、パソコンの前にずっと座って、調べたり作ったりでした。この時が第1ステップです。でも、地域の事をやるのであれば、地域の人と交流しないと、すぐに限界が来ます。
 それで第2ステップとして、2年目は様々な人に会うようにしました。だいぶ薄れてきたとはいえ、この辺りはまだ下町気質というものが残っていますから。自然と下町気質のある人と、話す機会が多くなるわけです。かっこいい言い方だと、心のふれあいがあったというんでしょうか(笑)。だんだん人との会話やコミュニケーションが、面白くなって、仲間というか、いいやつだなあと思う人が周りに増えてきました。その人たちとの会話が楽しいんです。
 次の第3ステップとして、地域のえらい人に会える様になりました。普通に生活してれば、そんな方々に会う機会なんてまず無いですよね。でも取材であれば、堂々と会いにいって、お話も出来る。それがとても楽しいし、面白いんです。

 ● HPの一番目立つ所にべーゴマの記載がありますが。

 近くの公園や商店街で、定期的に子供を集めてべーゴマをしてるんですよ。
 下町らしい遊びや、コミュニケーションの取り方として、べーゴマをやってます。ちょっとかっこつけた言い方をすれば、下町の子供達に、親とか学校では教えてくれない教育をしてると思ってます。
 例えば、べーゴマで勝つと相手のコマがもらえます。このルールを「ホンコ」といいますが、「ホンコ」でべーゴマを取り合う事で、競争心や向上心が生まれます。一生懸命考えて、べーゴマの角を削ったり工夫するんです。負けたら悔しいですし、勝ったら嬉しくて優越感に浸れますよね。
 人生は勉強とかスポーツだけじゃないと思います。でも、小さい時はそれに集約されてしまって、出来るだけ良い大学に入ろうとか考えてしまうんです。当然、大学を出なかったからといって、その人が落伍者だとは言えません。極端な話、田中角栄は小学校しか出てないわけですし。
 そういった既存の価値観で、子供達がくくられてしまうのはかわいそうだと思います。
 運動神経も悪いし、勉強も出来ない子がいるけれど、遊びは上手かったりする。全員とはいいませんが、こういった子が、勉強とは違ったところで大きく伸びるんですよ。
 そういった子達に、優越感とか自信とかを持たせる場として、「ホンコ」でべーゴマをするのは、意味があると思ってます。
 まあ、べーゴマで勝って数を集めてみても、それが何かに使えるわけじゃないんですけどね(笑)。でも、バケツ一杯持ってたら、大いに自慢できますよ。

 ● スタッフは何人くらいですか?

 う〜ん、何だかんだで10人くらいですかね。
 コラムなんかもやりたいと思う人がいた場合は、基本的にその人にお任せしてます。
 また、江東区で写真コンクールをやってるんですが、許可をいただいてその写真を「今日の一枚」のコーナーに使わせてもらってます。
 やる事が多くなってくると、一人じゃ出来ませんから、他人の手を使った内容も、増やさざるを得ないですね。

 ● 取材先はどの様に決めてますか?

 テーマや取材先は自分で決めてます。取材は大体3人で出かけていきます。
 インタビューは私。もう一人が記録および文章起こし。そしてカメラ担当です。
 取材時にカメラマンがいるのは大事なことですね。「写真撮ります」と相手にポーズとってもらってもあんまりいい写真は撮れない。インタビュー中に撮影した方が、生き生きとした表情が撮れるんです。

 ● 毎週メールマガジンも発行されていますね。かなりお忙しいと思いますが、
   編集会議はどの様に進めていますか?

 「なんちゃってメールマガジン」ですから、結論から言えばやってません(笑)。
 好きだからやっている、面白いからやっているというスタンスです。非常にアバウトなんです。ちゃんとしたスタッフが誰なのか、自分でもわかってません(笑)。だから、編集会議は特にありません。
 でも、今年くらいからだんだん取材される事も多くなってきたので、ちゃんとした組織を作らないといけないのかなと、思い始めてます。
 区のお祭りでべーゴマしたいなあと、知り合いの区の担当者に話すんですが、たとえ個人的に知り合いであっても、役所の行政者としては、ただの一区民の「鈴木さん」にはなかなか認められない。区が認めた団体登録をするとか、ちゃんとした組織でないと、何かあった時に困っちゃうから、任せられないと言うんです。
 別にお金がかかるわけじゃないんだから、そろそろ組織作りやんなよと言われてるところです。
 私が近くの公園でべーゴマ道場をする時は、サンダルで行ったりします。生まれも育ちもここで、娘も近くの学校に通ってますから、知り合いも多いんですが、かっこだけ見れば怪しいおじさんです(笑)。最近は変な人も多いですから、そういった面からも肩書きが必要かもしれません。
 それなりに行政が認めた肩書きなんかがあれば、べーゴマ道場もやりやすいよと言われてます。そういった、かっちりしたものを作らないとダメかなあとは思うんですが、性格なんでしょうね、そういうのは好きじゃないんです(笑)。
 編集会議も毎月やろうなんて話もあるんですが、最初の1〜2回だけで、多分出来ないと思います。飲み会なら別だけど(笑)。

 ● 歴史関係の記事が結構ありますね。もちろん下町関連ですが、
   調べるときはどんな点を注意されてますか?

 以前、ある歴史研究家の方から聞いた話ですが、東京の歴史には節目があって、その節目を押さえておけば、歴史を見るのにすっと入っていけるんだそうです。
 江戸とか、明治大正昭和平成の時代区分ではなく、大きな事件を節目にします。下町に関して言えば、明暦の大火、関東大震災や太平洋戦争(東京大空襲)等ですね。
 例えば、かつて隅田川にはほとんど橋がありませんでした。江戸時代は防衛の問題もあったから、意識して橋をかけなかったんです。ただ、橋が無かったために大火や震災で多くの人が亡くなると、避難用の橋がなければまずいと、お上も気づくんでしょう。隅田川には36くらい橋がありますが、ほとんどがこうした災害の後にかけられたんです。橋をきっかけに人の行き来が生まれ、町が発展していくんです。
 下町にとって一番重要な節目は、江戸時代の明暦の大火、いわゆる振袖火事ってやつです。江戸はこの大火で見渡す限り焼け野原になったんですが、それを期に防災都市というか計画的な都市設計が始まったからです。この火事が無ければ、またちょっと違った下町になってたんですよ。
 一説によると、明暦の大火では10万人以上の死者が出ました。多分世界最大の火事です。この死者を弔うために幕府が建てたのが、両国の回向院です。
 10万人以上を供養してますから参拝客が多く、その門前町は栄えます。やがて勧進相撲が盛んに行われるようになって、これが今の両国国技館につながるわけです。
 現在、相撲の殿堂は両国という感じですが、もし明暦の大火が無ければ、両国は相撲と何のゆかりも無かったかもしれない。これは、この辺りの歴史にとって、すごく大事な事なんです。
 でも、意外に知らない人が多いんです。こういう事を思いつく限り、コラムにはちょこちょこっと入れてるつもりです。

 ● 4年間活動されているわけですが、情報発信の名人として、
   情報を見つけるいろいろなコツをお持ちだと思うんですが。

 ははは、名人なんてまだまだですよ。(笑)
 でも、コラムを書くにしても、1時間かかるものと5時間かかるものがあるんです。例えば、人から聞いた話をまとめるのは1時間くらいで書けますね。
 区議会議員さん達と話せば、行政や工事の話が聞けます。例えば、どこかに電車を走らせる計画が…とか聞けば、これはネタになると覚えておくんです。
 こういった事がコツなんですかね。つまり、たくさんの人に会って話をする事ですよ。
 やっぱり、地域の人と会って話す機会は多いですね。区議会議員さんとかにはかないませんが、普通に生活している人よりはずっと多いわけです。すると、情報が自然と入ってくるんですよ。
 以前は、しょっちゅう地域の人と食事したり酒を飲んだりがあって、半分くらい夜はふさがってたんですが、ここ23ヶ月は忙しくて、12週間に1回しか人に会ったり出来なかったんです。
 すると、自分ではアンテナを張っているつもりでも、面白いネタは引っかからないし、気が抜けちゃうんですかねえ、最近はなんにも頭に浮かばないんですよ(笑)。
 あまり人と会ったり話したりしていない状態は、蓄積が無いというか、充電が足りないという感じですかね。そんな気がします。

 ● 表現や書き方とかで、意識されている事はありますか?

 小説家を目指してるわけじゃないんで、自信無いんですが、文章というよりは、話し言葉をそのまま書いたような文だねとよく言われます。
 前にプロの編集者に、どうすればコラムの文章がよくなるか聞いたんですが、そのしゃべり口調がいい味出してるから、そのままがいいよと返されてしまいました。
 メールマガジンも文章だけですから、あまり堅苦しいとすぐに飽きちゃいますよね。その点では、しゃべり口調もいいかなと思うんですけどね。
 今までに7080もコラムを書きましたから、最初の頃に比べれば少しは上手くなったと、少しは思ってるんですが(笑)。

 ● 当センターでは、HPで投票形式のアンケートに答えてもらい、
   読者の反響、意見を参考にしています。
   下町探偵団では、読者からの反響はどのような形で受けていて、
   どの様に生かしていますか?

 やってません(笑)。
 そうか、アンケートか。それも面白そうだなあ。これからやってみようかな(笑)。
 反応は、たまーにぽつぽつとメールが来るくらいですね。
 メルマガは全国に読者がいるそうなんですが、自分の知り合いもかなり読んでくれてます。だから、毎回メールをくれるわけではなくても、外を歩いてるときに知り合いに会うと、記事の感想や批評をしてくれたりするんですね。
 お世辞で毎回面白いですと言われるよりは、知らないところで突然言われた方が嬉しいし、励みになりますね。
 でも、何だかんだいっても基本的に反応は気にしてません。書きたいから書いてるし、面白いからやっている。これが基本的なスタンスですね。読者が喜んでくれれば嬉しいけど、喜んでくれなくてもそれはそれでいいやって思ってます。

 ● HPには下町の便利情報、公共情報も満載ですが、
   変更部分の確認や更新がとても大変だと思うんですが。

 ですよね。時刻表が変わったり、営団地下鉄が東京メトロに変わったりしましたから、更新しなきゃとは思ってます。でもなかなか…。
 HPのパブリックな部分は、最初に机に座って作っていた頃の名残ですね。たまに変わってますよと指摘されたりすると、まだあてにしてる人がいるから頑張らなきゃとは思うんですが、ちょっと後回しになってます。あんまりいい事じゃないですね。
 アクセス数がもっと増えればいいなあと、思ってないわけじゃありませんから、もう少し公共性の配慮も必要ですかね。自分勝手にやってるだけじゃいけないとは思うんですが、難しいです。
 先日、検索サイトで上位になるかなと思って、サイト名をちょっと変えたんですが、あんまり順位は変わりませんでした。ちゃんと勉強して頑張れば違うんでしょうが、そこはその、なんちゃってですから(笑)。

 ● 今後の目標や、夢は?

 下町探偵団一色なんです。やっぱり。
 地域の仲間が何かをする時に声をかけてもらって、メンバーにはなるんですが、なっても、そんなに気合入ってないみたいです。でも、下町探偵団に関しては、やる気があってすごいねえってよく言われます。
 目標というわけではありませんが、夢と言えば、下町探偵団の事を誰もが知ってるくらい知名度が上がったらいいなあと思います。でもすごく気合入れてやってるわけじゃないから、夢なんですね。
 その実現に向けて邁進しているって訳でもないんですよ。変な欲は無いわけじゃないんですが、でも気合は入ってないんです。
 近くの富岡八幡宮で6月にべーゴマ道場を予定してるんですが、この辺りで一番大きな神社ですから、八幡さまでもべーゴマが出来ると思うと、ちょっと夢がかなったみたいでなんだか嬉しいです。
 権威もありますからね。東京の三大祭が何かについて、諸説あってはっきりしないんですが、一説には赤坂日枝神社の山王祭、神田明神の神田祭、それに富岡八幡宮の深川八幡祭りが三大祭とされています。そんな大きなお祭りをする神社ですからね。氏子にとっては本当に晴れ晴れしい事なんですよ。自分達もちょっとは認められてきたのかな、なんて思ったりします。
 最近は第4ステップに入りつつあります。べーゴマもそうですが、ネット以外のところで、自分からイベントをしかけていきたいですね。
 これをやると決めてるものは無いんですが、他の人や行政に働きかけて、いいなあ、面白いなあと思えるイベントをやりたいと思っています。
                          【インタビュー:緑川直樹】
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