江東活學大學

第13回

<プロフィール>
1993年樹木医の資格習得。都内の街路樹の調査、指導。
最近の実績:
都立公園旧古河庭園ダイオウマツの樹勢回復工事。
都立公園六義園シダレザクラ、吹上のマツの樹勢回復工事。
東京農業大学卒。愛知県出身。
『樹木を知ろう。街を楽しく歩く』
樹木医
玉木 恭介さん

講演

●木は自然の中ではじめて木になる●
樹木ほど地球上で重要な位置を占めているものはありません。
白亜紀、恐竜の時代、太古から植物とのかかわりの中で生物は進化してきました。もっと近い歴史を見ても黄河やメソポタミア文明でも樹木があっての文明です。
現在、環境問題、福祉問題いろいろ有りますが、樹木はそれらの全てに絡んでいます。お年寄りが健康な生活を送る中にもかかわりを持っています。少しでもその辺のところが、今日はご理解いただければと思います。
最初に樹とは……ですが、
皆さん草花、ガーデニングで植物とかかわっていらっしゃる方は大勢いらっしゃると思いますが、木は自然の中にあって木でありまして、塀とか道とか家とかに囲われてしまいますと、困った(木を囲うと困ったという字になるのを示して)状態になるのですね。木は自然の中に置いてもらうのが一番いいと叫んでいます。
今日はスライドを見ながら色々な事例を話したいと思います。

★今ここに、大木が倒れている写真があります。実際に台風などで木が倒れたところに立ち会える機会は人生にそうあるものではありません。たまたま東京を昼に通過する台風に気持ちが騒ぎました。青山一丁目赤坂御所隣のユリノキの街路樹が台風で二本倒れたのです。
倒れてから二時間ぐらいたっていたのですが、立ち会うことが出来ました。写真で見ても分かりますが根が全部腐朽している状態なんですね。自然界でこんなに早くひどくなる事はありえないですね。これは街路樹だから、こうなったのかなと思いました。
この所ずっといろいろな木を調査してきて、最近分かって来た事ですが、樹木の枝葉を強剪定することが、根に大きな負担になっているのです。
江東区の街路樹も全部丸坊主にしちゃうのですが、木にとってはとても迷惑なんですね。剪定をするということが木には負担以外の何者でもないのです。剪定されて葉がなくなるということは、太陽光線から養分を取り入れられないという事、根に養分が行かなくなることなのです。人間でいうと栄養失調になっているわけです。根元から枝が生えているのも健康な木には決してないことです。剪定し過ぎる木は病気になります。

●樹木も人間も土が大事●
★冬が近ずき、落葉の季節をむかえました。木の本当の姿が分かります
原寸大の葉も見本にありますのでご覧になってください。例えば木の名前が分からなくても葉脈がどのようについているか、モミジのような葉か、丸いハート型の葉か、イチョウみたいな葉かを分類するだけでも、家に帰ってから図鑑で調べ易いです。
木は何が大事かといいますと、水と空気と土と太陽の光と四つの要素で生きています。植物は人間社会の重要な部分を占めているので自然界では大事です。落ち葉は肥料になります。園芸店で売っていますね。腐葉土です。
肥料をやることで植物はそれを栄養にすると思いますか?
直接的には何の栄養にもなりません。微生物、バクテリアが土の中にいてくれてはじめて栄養になるのですね。土の中の微生物、バクテリアが分解という作業をしてくれて、無機化されて植物に吸収されるのですね。よく有機栽培ってありますでしょ。
それは直接そのままでは駄目なのです。分解微生物が大事ということです。微生物が生きていくには健康な土がないとだめなのです。微生物が沢山いる土は健康な土なのです。

★街路樹の話を少しします。
パターンがあるのですね。ベッコウダケの生えている場所は樹木にとって環境がよくありません。どのようなところに生えていると思いますか?人間に非常に近い場所で発生するのですね。面白い場所では花屋さん。中華料理屋さん。その前の街路樹は皆不健康です。切花をさす水などを毎日変えて前に流す。あの水というのは悪玉バクテリアいわばバイキンの塊なのですね。毎日まけば、土が不健康になるわけです。
それでなくても都会の街路樹は危険な状態にあります。行政の仕事はなかなかストップがかからないものですから、困ったものです。

★ついでですからきのこの話を少しします。きのこと言えばマツタケ、まいたけ、しいたけなど食べられるものしか関心がないかもしれませんが、有機物を分解する大切な生き物です。樹木の材、セルロースの部分というのはですね、非常に頑強でなかなか分解しません。そのようなものを分解するのがきのこなんですね。ベッコウダケなども大きな大木の根っこをほんの10年ぐらいで食べてしまう強烈な食欲の持ち主です。アッと言う間に土に返してしまいます。

●江東区の街路樹プラタナス●
★ 街路樹の話に戻りますが、江東区は街路樹にプラタナスが多いですね。プラタナスには一種類しかないと思われているかもしれませんが実は三種類あるのです。
スズカケノキ、アメリカスズカケノキ、モミジバスズカケノキです。明治時代になって日本に入ってきましたので大きいものでも100年ぐらいです。最初の木は新宿御苑にあるのですが、その子孫を刺し挿し穂でどんどん増やしたのが街路樹になっています。
スズカケノキは乾燥に強いです。もともと砂漠地帯に生えていたものですから。とくに中近東から南フランスにかけてと、北アメリカの中央の乾燥した平原にあります。モミジバスズカケはミックスしたものです。
ここに三種類の葉の見本を持ってきましたが、特徴がよく分かると思います。
スズカケノキは葉の断裂が5つから7つ入っていて、その割れ目も深く裂片の幅は狭いです。幹は大きなうろこ状にはげて、淡い緑白色のまだらになりますね。実の形は丸い実が串団子のように2ヶ〜6ヶくらいつきます。
アメリカスズカケノキは葉の断裂が3つの割れ目で浅いです。裂片は幅が広いですね。丸い実は一個だけ垂れ下がります。
モミジバスズカケノキになると5つに割れて、そのわれかたもでこぼこです。雑種になります。実は二つくらい下がりますが、さくらんぼのように枝分かれした実になるのが特色ですね。
皆さん、明日から街路樹をみるのがたのしみですね(笑)。日比谷公園には三種類の木が並んで生えている場所があるのですが、行く機会がありましたら探してみてください。

★では次に、仕事で環状六号線の池袋要町交差点の中央グリーンベルトクスノキを伐採するところでしたが、30年くらいたっていて立派な樹木に成長しているため是非移植して欲しい旨を報告し、予算化してもらいました。根回しをして移植すれば絶対に枯らさないと言う条件でし行ないました。
移植をする一年位前に根切りをしました。100パーセント活着するんですね。木の根っこの一箇所だけ環状剥離を行い、半年位して掘ると根が出ているわけです。私もこれで初めて全体から根が出ることが解かりました。普通は直根といって木を支える根があるのですがこれにはないのですね。これは都会の悲しい現象で天然の地層ではないものの上に木が植えてあります。木がそれ以上下にいかれないということですね。都会の木は非常に虐待を受けているわけです。

●元気な木の見分け方と年輪の話●
★元気な木かどうかの判断を少し話します。二本の樹木の映像がありますが、どちらが元気か分かりますか?
大きな違いは花の数ですね。木は病気になって弱ってくると何処に変化が現れるかと言う事です。先端から枯れてくるのですね。下の方から枯れるのは病気ではないのですね。それは植物の生理現象です。上の枝が枯れている場合は根が腐ったり土が固いとか、水が十分に上がらない場合です。枯れている場所が解かるだけでも植物を見る目が違ってきます。では何故同じ様な場所に植わっているのに片方だけは悪いのか。
片方は盛り上がった所に植わっています。片方は平らなところです。これが植物の生育条件を二分している大事なことなのですね。平にあるほうは雨が来るとすぐに水がたまってしまう状態になるという典型的な例ですね。
街路樹が根元から芽が出ているものがありますね。サクラ、イチョウなどよくありますね。そういう木は少し弱ってきたかなと判断します。植物の細胞は根にもなるし枝にもなる。何にでも変わる。突然栄養のバランスが悪くなると芽がバラバラとアッチコッチに出てくるものなのですね。


では最後に、樹木の輪切りを少し持ってきましたので、ちょっと年輪の数を数えてみてください。
植物は木の太さではないのですね。人間でもデブとか痩せとかいますが、根本的にはどれだけ中身がしまっているかということが大事なわけでして、それが輪切りの部分に出ています。
年輪は中と外とで色も違います。樹木はどんどん年輪を重ねることによって太くなるのですが、皮に近い場所はまだ若い材なのですね。だからまだ形成層が生きていて活発だから色が違うのですね。中はだんだん樹脂分が蓄積してきて固くなります。
年輪は外側のほうが幅が広いですね。まだ若い木でどんどん成長している木ですね。同じ太さの木でも年輪が詰まっているのは価値が高いです。年輪の黒い部分というのは冬の部分ですね。
最後になりましたが、昔は東西南北をみるのに切り株で解かると教えられましたが、あれはウソですね。植物は生きている場所によって違います。その地域が南斜面にあるか、北斜面にあるかによっても違います。東西南北は判断できません。今後注意して下さい。……終了します。

(2003年10月9日収録)文責:室井朝子