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下町の顔
FACE

第31回
『下町の粋を伝えるどじょう鍋』

<プロフィール>
どじょう料理店「伊せ喜」第5代店主。
大学卒業後、家業を親から譲り受ける。
趣味は読書。
昭和33年生まれ。
どぜう伊せ喜店主
家室 茂雄さん

江東区の高橋のたもとに明治時代より続く老舗「伊せ喜」があります。趣のあるたたずまいで昔ながらの味を守り続けるどじょう料理店です。今回はその「伊せ喜」を訪ねてみました。


1.江戸のたんぱく源
★どじょうなべの歴史みたいなところからお願いします。
まず、江戸時代を通じてどじょうというのは、けっこう庶民の料理で日常的な食材だったんですね。
江戸っていう町は人口が異常に多い町だったんで、とても江戸前の魚なんかではそのたんぱく質をまかなえきれなかったんです。
江戸市中含めて田んぼが多かったですからね。そこで、あさり、しじみだのどじょうだのと、かつぎ売りが来る訳ですよ。百姓がそれを買って、みんなあさげに味噌汁に仕込んで食べてた。それがたんぱく源だったんですね。
そんなどじょうが、だんだん江戸の終わりごろになって、じゃもうちょっとおいしく食べてみようやということになって、江戸のどじょう料理というものが成立してきたんです。そのどじょうを開いて提供する店で「やながわ」という屋号の店ができて、それで柳川鍋になったんですよ。

店舗外観
★へえ、やながわという店があったんですか。
そう、屋号なんですね。あと今よりもどじょうやさん自体は沢山あったんですよ。何軒もね。

★庶民的な料理だったんですね。
今でも庶民的ですよ。ただ、今は仕入値が上がっちゃってるから、ある程度高い値段を頂戴しないとあわなくなってますけどね。
値段をあげざるえないというか、天然ものは少なくなっちゃってるし、上質なものも捕りにくくなってる。うなぎに比べて、キロあたり倍くらいの値段がするわけですよ。

★えっ、そんなにするんですか?
高いですよ。だからこれでもうちはバーゲンしてるくらいです (笑) 。もう全然、利益率は悪いしね。
その証拠にどじょう屋は増えないじゃないですか、割に合わない商売なんですよ。このグルメ時代、模倣してどじょう屋を始めようとする人が出てきてもいいと思うのに、専門店は出てこない。技術的な面というよりもその場に合わないということだと思うんですよね。
それと、どじょうとの距離っていうのは、江戸、昭和、ついこの間まで結構近かったんですが、ここのところだいぶ疎遠になってしまって、特別料理とかゲテモノ的なものになりつつあるんじゃないでしょうかねえ。

★ゲテモノ的・・・?
ゲテモノ的っていうか、はずしてね。はずしてうちなんかにくるんじゃないかなあ。

★あー、確かに珍しいと言ったら珍しいですね。それと食べたことがない人には、ちょっと抵抗があるかもしれない。
うん、食べず嫌いもあるしね。だからいろんな意味において、縁遠くなっていますね。

うなぎより高いんですよ
★東京で、どじょう屋さんって何軒ぐらいあるんですか?
大きいところで3つ、小さいところで4つくらいじゃないですか。浅草の駒方どじょうさん、飯田屋さん、両国の桔梗屋さん。

★でもやっぱり、庶民料理だったせいかですかね。下町というか、城東方面に集まっているんですね。
知名度から言うと、申し訳ないですがやっぱり駒方どじょうさんになっちゃうと思うんですが、対抗意識とかあるんですか?
もってなければいけないんでしょうけどね。でもむしろうちなんか、家族連れが減っているから、ファミリーレストランや、大手スーパーなどの商業施設を意識しますね。
あと地下鉄ができて便利になったけど、いろんなとこと繋がっちゃったから、地元の人が流出しちゃう訳でしょ。そういうとこと争わないといけない。
今までは交通不便で陸の孤島みたいだったから、しょうがねえ、伊せ喜でも行くかって、この辺の人は来てくれたんですよ。まずくっても行ってやるかなんて言ってね。

2.庶民料理として・・・
★ところで「家室」というのは珍しい名前ですね。
「いえむろ」と読むんですけど、東京では1件だけですね。他の読みかたで、「かむろ」と読む人が川崎にいるのかな。
江戸時代、まだ町人の苗字がなかった時にその頃の主人からもらったんじゃないですかねえ。暖簾分けみたいな感じで。昔はぜんぜん飲食関連じゃなかったらしいですけどね。そう聞いてますけれど。

★お店はもともとこちらだったんですか?
飲食を最初やるようになった時は、神田の鎌倉橋で細々とやっていたんですが、高橋という町は当時栄えていたんですよ。芝居小屋や映画館もあって、高橋のたもとに行徳行きのポンポン蒸気が出てたんですよ。
明治20年、神田から移ってきて、関東大震災で焼かれ、東京大空襲で焼かれ、今、現在に至っています。

★本当に昔からやられてるんですね。
そういうのってあまり意識しない方がいいと思うし、120年近くやってますけど、だから何なのって思いますね。京都にいけばいい店もあるしね。
逆にその何代も続いていることから来る縛りがあって、あまり勝手なこともできなかったりだとか、そういうのもある。付加価値的に伝統がどうのこうのじゃないんじゃないですかね。

★確かに、伝統に縛られて自由が利かないお店ってありますよね。
今だにいますよ。「あーお父さん草ばの影で泣いてるよ、こんな定食作っちゃったから」「掘りごたつなんて掘っちゃって」とか言われるお客さん。ありがたいですけどね。苦言を呈して、ご意見番たくさんいらっしゃいます。

★逆にありがたいですね。
うん、ありがたいですね。けれどそこに無言のなんていうかな、縛りとか感じますね。

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