下町の顔 | FACE |
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第15回 『天皇陛下の時計を直した男』 |
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室井時計店店主 室井 周治さん |
「私から見ると今の時計は時計じゃなくて計算機だね。古時計は、正確さでは新しいものとは比較にならないけれど、全体の型や細工など我々にはできない、すごいものがたくさんあるんですよ」。亀戸中央通商店街の中程にあるお店をお訪ねて、開口一番室井さんの言葉でした。時計を愛して半世紀以上。どんなエピソードがうかがえるのか、楽しみに取材に入りました。
古時計の愛好家が集まった世界的な会としてNational Association of Watch and Clock Collectors, 略してNAWCというのがあるのですが、古典時計協会はその108つ目の支部ということになりますね。古時計そのものに興味がある人もいますし、修理する人も、コレクターの人もいますよ。情報交換したり、普段は見ることのできない貴重なコレクションに出合う事もありますよ。 こういうところに所属しながらも、私は、今の新しい時計から電波時計まで講習に行っていますよ。こんな年寄りですけどね。勉強に行く。古いものだけじゃ駄目なんですよ。電池の構図なんかもね。 ★古時計とはどういうものですか?例えば、室井さんぐらいしか直せないものもあるそうですね。他の時計と何がどう違うか……? 例えばね、この時計ね(※)、中国の清朝時代のものですが、こういったものは世の中に二つと同じものはない。そしてね、からくり物を動かすためのものだから、一定時間ごとにそれを動かすには時計を仕込まなければ動かせないでしょ。からくりものだから同じものは一つとしてないのですよ。全部違う。だから修理だって一つ一つ違ってきてしまうから難しい。でも、面白いのですよ。私だけしか直せないと言うよりも、私にとっても一つ一つが違う出合いになるんですよ。 ※(店内に貼ってあるポスターの、色付きガラスをふんだんにちりばめた音を奏でる宝飾時計を指差して。ポスターは2002年2月22日から3月31日まで東京都南青山にある根津美術館で開催された『開館60周年記念名品第九部 清朝の宮廷を飾った時計 』の案内。この時、室井さんは『カリオン時計を聴く』の講師も務めている) ★古時計は時計というより宝飾品なのですね。 そう、からくりを楽しんで、そこから奏でられるメロディを楽しんで、この音のことをカリオンと言いますけどね。 ★ところで時計そのものはどのようにして発達してきたのでしょうか? 定時法が採用されるまでは不定時法といって太陽の動きにあわせていたので夏と冬でも二時間以上も差が出てきますね。日時計、砂時計、水時計などいろいろあるのですがね。日本ではお寺などが鐘を鳴らして時を教えていましたね。そういう自然に添わないで時を時として計算するようになります。まあ定時法というのですが、商人が使用人を働かせるためにそうなったといわれています。不定時法では冬時間となると、極端に時間が短くなって仕事の能率が上がりませんからね。
いないんですよ。だから困っているんですよ。ずっと前にコレクターの大学の先生が、私を人間国宝にしたいと言われて、関係書類を持ってみえたのですが、それをやるには後継者育成という条件のようなものがあるんですね。ただ自分がやればいいというものではなくてね。私自身もまだまだ研究をしながらせなならん。古典時計は一つ一つ違うしね。後継者なんて作れない。で、お断りしたんです。 ★もったいないですねぇ。さて、時計屋さんにはどうしてなられたんですか? もともと手先のことは好きだったんですけどね。なにせ私が若い頃は戦争中でしょ。私は次男で兄貴は戦争に行っていたんですね。あの頃はすぐに徴用に引っ張られてしまう時代で、それで、難しい試験だったけれど国鉄を受けて駅員になったんです。終戦で兄貴が帰ってこなければそのままでよかったんだけれど、兄貴がひょっこり帰還した。じゃぁ自分の好きなことをやろうと思って、それで昭和23年に焼け野が原の東京に来たんですよ。東京駅を降りて中央線に乗って阿佐ヶ谷まで行かなければ家が建っていなかった時代でしたよ。 伝(つて)があって、時計屋さんに小僧に入って修行を始めたんです。 |
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