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下町の顔
FACE


2.職人的な分野の中で女性として
★舞台美術家になってよかったことは?
むむむむ……涙を流したことはないけど辛い時間もあるんですよね。アイデアは出さなければいけないし、俳優や演出家に言われたことは、できるかできないかって、プレッシャーをワーとかけられて、そんな中で稽古があって、その後、劇場に入ってきて、セットを組んで、明日になったらこのセットに俳優がのって、照明が当たって、観客が入ってきて……って。どんどん足し算をして初日に向かっていくわけですよ。最初はプロデュサーと演出家だけで始めたものが、舞台装置が入ってくると、もう今日だけで50人くらい来ていますよね。サポートしていく人間が日を追うごとに増えていく。明日、役者さんが入ってくると80人くらいになる。さらにスタッフがふえて100人くらいになる。前から見たら3人だけど裏に回ったら百人単位の人間がいっぱい動いている。それで初日が開く。そんな過程を経ている中の自分なんですね。
私だけが絵を描いていて、ある日それが完成して私の部分が終わったという感じではなくて、集団戦で一個のものを作り上げていって初日を迎えたときにお客さんの喝采を浴びられるというのが良いんじゃないでしょうか。あえて言うなら舞台美術をやって賞をとったから良かった、という発想にはならないですね。舞台美術を選んだおかげで一人だけの仕事じゃなくて、そうやって集団で組んでいるからこそ、喧嘩して言い合っても達成感がありますからね。

「tick,tick,BooM!」の舞台制作風景
★辛いときは?
それはおうちに帰れないときですね。小学生の子供がいますから。

★舞台の裏方って職人の世界ってとこがあるから男性がまだまだ多いですよね。女性で困ったことありますか?
そんなのはすぐに忘れることにしているからなぁ。悩んだって男の人になれるわけではないから、その中で何ができるかということしか考えてこなかったんじゃないかなぁ。その代わり倍はやらなければいけないとは思っていましたね。

★倍はやらなければいけないなということは、あいつは女なんだと見られているということですね?
潜在意識の中にはあるんでしょうね。目に見えて言われたことはないですけど。例えばヨーイ、ドンで、平台を担ぐ。男の人は二つ担げるけど私は一つしか担げないからその分二回行ってこなければならない。そんな単純な話ではないですがせめて気持ちだけでも、と。そういうのは若い頃にありましたね。今はないですけど。

★実際に現場でトンカチ持つんですか?
昔はやってましたよ。でもだんだん年をとってきて力もなくなってきたんで邪魔者扱いになってきて今は余りやりません(笑)。下積みのときは何でもやって覚えなさいって、ナグリを持って一通りやらされた。その最後の世代かな。

★"闘う美術家"というフレーズを新聞記事で見たんですが、演出家の人と渡り合ったりするんですか?
すごいフレーズで書かれましたね。話し合っているだけですよ。こうしたらどう?私はこうだわ……って。ただ、演出家にいわれてニコニコしているというところは私にはないから、ニコニコしない美術家って書くよりは闘う美術家って書いたほうがインパクトあるからなぁ。ライターさんはうまいなぁ。そんな風には言葉としては言っていないのに。でも嘘ではない。そんなところがうまく書かれたなぁと思いましたね。
感じ取られたところが文字にされちゃう。ちょっと感情出したところをひゅう!と掬われている。

★ところで、小さいときはどんな子供さんでしたか?
気の強い、イヤな奴でしたね。
パン屋さんが育ての親

★そんな風には見えませんよ。ご出身は大阪ですよね。下町ですか?
下町じゃなかったですね。

★どうですか、今、江東区の下町に住まわれて?
すごくいいところですよ。事務所があるのはパン屋さんの上ですが、そのパン屋さん一家とその隣のおばあちゃんに、うちの子供は育てられたようなものですから。こういうことは下町じゃないと恩恵にあずかれないですよね。大家と店子の関係だっただけなのに、ずっと見てもらって。その家族の方がいらっしゃらなかったら、仕事ができていなかったと思う。下町の大家さんあっての我が家と言っても言い過ぎじゃないような気がする。

★下町の好きなところは?
他人でもまだ思いやるところが残っているところ。

★嫌いなところは?
情報が集まりすぎるところ(笑)。すごいなぁっと思う。情報はいい事だけどある意味怖い部分も。

3.座右の銘
★では最後に恒例の座右の銘を?
そんなものはない。

★無いですか。じゃ、生き方、信条、ポリシー、モットー……もっと他に言い方は無いかな(笑)?
じゃ、搾り出して、『明るく健やか』とかぁ?

★そうですね、じゃこれだけは守ってるとか?
ええ……人様に迷惑をかけないとか……、やっぱり、特にはないようですね(笑)。


ミュージカルの下見のためにロシアに行っていた松井さん。帰国した翌日にわずかにあいていた二時間に飛び込んでのインタビューでした。忙しい身でしたのに、実ににこやかに答えてもらいました。時々出る男言葉ですが、柔らかい声質にからまって妙なサッパリ感をかもし出していました。飄々とあるがままに、今の場所に来た、ということでしたが、そうは言っても、数々の受賞が、松井さんの納得のいくまでの努力と踏ん張りを物語っていると思いました。雑談で、子供さんの教育の話をしたときは、お母さんの顔に戻って印象的でした。
※2003年6月収録
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